「個人事業主でも利用できる助成金や補助金が知りたい」「自分の今の事業でどの制度を活用できるのか知りたい」と悩む個人事業主の方は多いのではないでしょうか。
今回は、個人事業主が受けられる助成金・補助金制度について、詳しく解説します。
助成金や補助金は返済の義務がないため、賢く活用することで事業の成長につながるでしょう。個人事業主が助成金や補助金を利用するメリット・デメリットも解説していますので、ぜひ最後までご覧ください。
助成金と補助金の違い
まずは、助成金と補助金の違いを理解しておきましょう。助成金と補助金について、それぞれの概要をまとめましたのでご覧ください。
助成金とは
助成金は、基本的に要件を満たしていれば給付される傾向があります。一方、補助金は予算や定められた数に限りがあり、抽選などの方法で給付の可否が決まります。
また、助成金の応募期間は一般的に比較的長く設定されていますが、補助金の応募期間は通常短いことが一般的です。
補助金とは
補助金は、政府や地方自治体が特定の政策目標に基づいて選定した事業に対し、中小企業の成長や地域経済の活性化を促進するために提供される資金のことです。
これらの補助金は、事前に設定された予算や対象事業の数に制限があり、申請された事業が採択される必要があります。ただし、補助金の支給は申請しただけでは確約されず、採択されるかどうかは審査に基づいて決定されます。
個人事業主が受けられる助成金・補助金一覧
ここでは、個人事業主が受けられる助成金・補助金として、以下の制度を紹介します。
- 人材開発支援助成金
- キャリアアップ助成金(正社員化支援)
- トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)
- 地域雇用開発助成金(地域雇用開発コース)
それぞれの制度について、概要を確認しましょう。
人材開発支援助成金
人材開発支援助成金は、企業が従業員のキャリア形成を重視し、専門的な知識やスキルの習得を計画的に行うための助成制度です。職業訓練などによるスキルアップを目指す企業を対象にしており、8つのコースが設けられています。
なお、令和5年4月に「特定訓練コース・一般訓練コース・特別育成訓練コース」の3つのコースが統合されて「人材育成支援コース」に名称が変更されました。
以下は、各コースの受給要件を抜粋したものです。
- 人材育成支援コース:雇用する被保険者に対して、職務に関連した知識・技能を習得させるための訓練、厚生労働大臣の認定を受けたOJT付き訓練、非正規雇用労働者を対象とした正社員化を目指す訓練を実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成
- 教育訓練休暇等付与コース:有給教育訓練等制度を導入し、労働者が当該休暇を取得し、訓練を受けた場合に助成
- 人への投資促進コース:デジタル人材・高度人材を育成する訓練、労働者が自発的に行う訓練、定額制訓練(サブスクリプション型)等を実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部等を助成
- 事業展開等リスキリング支援コース:新規事業の立ち上げなどの事業展開等に伴い、新たな分野で必要となる知識及び技能を習得させるための訓練を実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成
- 建設労働者認定訓練コース:認定職業訓練または指導員訓練のうち建設関連の訓練を実施した場合の訓練経費の一部や、建設労働者に有給で認定訓練を受講させた場合の訓練期間中の賃金の一部を助成
- 建設労働者技能実習コース:雇用する建設労働者に技能向上のための実習を有給で受講させた場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成
- 障害者職業能力開発コース:障害者の職業に必要な能力を開発、向上させるため、一定の教育訓練を継続的に実施する施設の設置・運営を行う場合に、その費用を一部助成
出典:人材開発支援助成金
各コースごとに助成の対象や助成額は異なりますが、制度全体の特徴として、訓練に係る費用などを支援します。
キャリアアップ助成金(正社員化支援)
キャリアアップ助成金は、厚生労働省が非正規雇用の労働者を対象にした制度です。この助成金は、企業が非正規雇用から正規雇用への転換や、労働条件の改善を行う際に支給されます。非正規雇用の労働者が安定したキャリアを築くための支援を提供することで、労働市場の安定化や労働者の福祉向上を目的としています。
キャリアアップ助成金の受給対象となるのは、以下に該当する事業主です。
業種 | 条件 |
小売業(飲食店を含む) | 資本金5,000万円以下または労働者50人以下 |
サービス業 | 資本金5,000万円以下または労働者100人以下 |
卸売業 | 資本金1億円以下または労働者100人以下 |
その他の業種 | 資本金3億円以下または労働者300人以下 |
なお、キャリアアップ助成金は「正社員化コース」と「障害者正社員化コース」の2つに大きく分けられ、正社員化コースの場合は以下の支給条件・金額となります。
条件 | 金額 |
有期雇用から正規雇用(正社員) | 57万円 |
有期雇用から正規雇用(正社員)、なおかつ生産性向上要件を満たす場合 | 72万円 |
無期雇用から正規雇用(正社員) | 28万5,000円 |
無期雇用から正規雇用(正社員)、なおかつ生産性向上要件を満たす場合 | 36万円 |
また、障害者正社員化コースでは、支給条件や金額は以下の通りです。
対象者 | 条件 | 金額 |
重度身体障害者、重度知的障害者および精神障害者 | 有期雇用から正規雇用(正社員) | 120万円 |
有期雇用から無期雇用(正社員) | 60万円 | |
無期雇用から正規雇用(正社員) | 60万円 | |
重度以外の身体障害者、重度以外の知的障害者、発達障害者、難病患者、高次脳機能障害と診断された者 | 有期雇用から正規雇用(正社員) | 90万円 |
有期雇用から無期雇用(正社員) | 45万円 | |
無期雇用から正規雇用(正社員) | 45万円 |
トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)
トライアル雇用は、主に職業経験が不足している方や新しい職種に挑戦したい方を対象としています。
この制度では、企業と求職者の両者がお互いの適性や能力を評価するために、通常3カ月間の試用期間が設けられます。この試用期間を経て、双方が相互に適合するかどうかを判断し、その後に雇用期間に制約のない「無期雇用」へ移行できます。
トライアル雇用助成金を利用するためには複数の条件があり、以下はその一部です。
- トライアル雇用の対象者を、紹介日前に雇用を約束していない事業主
- トライアル雇用を行った企業の事業主または取締役の3親等以内の親族以外の対象者を雇用した事業主
- トライアル雇用を開始した日の前日から過去3年間に、同じトライアル雇用の対象者を雇用していない事業主
また、雇用される求職者は以下の条件を満たしている必要があります。
- 紹介日時点で、就労経験のない職業に就くことを希望する
- 紹介日時点で、学校卒業後3年以内で、卒業後、安定した職業に就いていない
- 紹介日の前日から過去2年以内に、2回以上離職や転職を繰り返している
- 紹介日の前日時点で、離職している期間が1年を超えている
- 妊娠、出産・育児を理由に離職し、紹介日の前日時点で、安定した職業に就いて
- いない期間が1年を超えている
- 就職の援助を行うに当たって、特別な配慮を要する
地域雇用開発助成金(地域雇用開発コース)
地域雇用開発助成金(地域雇用開発コース)は、地域内で雇用の機会が不足している事業者が、事業所の設置や整備を行う際に発生する設置整備費用を一定の条件に応じて支援する制度です。
この制度では、地域に住む求職者を雇用することが条件となり、支援を受ける事業者は一定の基準を満たす必要があります。その結果、地域経済の活性化や雇用の増加を促進することが期待されています。
受給するための要件は、受給回数によって異なり、以下のように定義されています。
受給回数 | 受給要件 |
1回目 | 同意雇用開発促進地域等の事業所における施設・設備の設置・整備及び、地域に居住する求職者等の雇い入れに関する計画書を労働局長に提出すること。事業の用に供する施設や設備を計画期間内に設置・整備すること地域に居住する求職者等を計画期間内に常時雇用する雇用保険の一般被保険者または高年齢被保険者としてハローワーク等の紹介により2人(創業の場合は2人)以上雇い入れること設置・設備事業所における完了日における被保険者数が、計画日の前日における数に比べ3人(創業の場合は2人)以上増加していること |
2回目・3回目 | 被保険者について、第2回目の支給基準日(完了日の1年後の日)および第3回目の支給基準日(完了日の2年後の日)における数が、完了日における数を下回っていないこと前述の要件を満たして雇い入れられた対象労働者について、第2回目および第3回目の支給基準日における数が、完了日における数を下回っていないこと完了日以降に事業主都合以外の理由による離職者が発生した場合、一定の範囲で補充が認められるが、第2回目および第3回目の支給基準日までの離職者の数は、完了日時点の対象労働者の1/2以下、または3人以下である必要がある |
受給額については、事業所の設置費用と増加した労働者の数に応じて決定します。
設置・設備費用 | 対象労働者の増加人数※括弧は創業の場合 | |||
3(2)〜4人 | 5〜9人 | 10〜19人 | 20人〜 | |
300万円以上 | 50万円 | 80万円 | 150万円 | 300万円 |
1,000万円以上 | 60万円 | 100万円 | 200万円 | 400万円 |
3,000万円以上 | 90万円 | 150万円 | 300万円 | 600万円 |
5,000万円以上 | 120万円 | 200万円 | 400万円 | 800万円 |
※中小企業は1回目の支給で1.5倍の支給額
※中小企業でなおかつ創業の場合は、1回目の支給で2倍の支給額
個人事業主が助成金や補助金を利用するメリット
個人事業主が助成金や補助金を利用するメリットには、以下の2点が挙げられます。
- 返済する必要がない
- 事業に注力できる
それぞれの項目について確認しましょう。
返済する必要がない
個人事業主が助成金や補助金を利用する際の最大のメリットは、返済する必要がない点です。通常の融資とは異なり、これらの支援金は返済の義務がありません。
このため、事業を立ち上げる際や拡大する際に、返済による負担を気にすることなく資金を活用できます。また、返済の負担がないため、事業計画をより柔軟に立てることが可能です。
事業に注力できる
個人事業主が助成金や補助金を活用する際のもう一つのメリットは、事業に注力できる点です。助成金や補助金は返済の必要がないため、利用することで万が一赤字になった場合でも損失を抑えられます。そのため、事業の失敗に関する不安やリスクが軽減されます。
資金や経費の不安がなくなることで、イノベーションやマーケティング活動、新規プロジェクトの立ち上げなど、事業の重要な側面により多くの時間とエネルギーを費やすことが可能です。
このように、助成金や補助金を利用することで、個人事業主は事業の成長に向けた活動に集中し、より効果的に事業を展開できるでしょう。
個人事業主が助成金や補助金を利用するデメリット
反対に、個人事業主が助成金や補助金を利用するデメリットも存在します。それは、以下の2つです。
- 手続きには時間がかかる
- 必ずしも受給できるとは限らない
それぞれのデメリットについて確認しましょう。
手続きには時間がかかる
個人事業主が助成金や補助金を利用する際のデメリットの一つは、手続きに時間がかかる点です。申請や手続きには、多くの書類や必要な情報の提出が必要であり、これらを準備するだけでも相当な時間を要します。
さらに、申請後には審査や承認のプロセスがあり、これにも時間がかかることがあります。特に、助成金や補助金の需要が高い場合や申請が集中する期間には、審査にさらに時間がかかる可能性があります。
そのため、事業主は申請や手続きに十分な時間を割く必要があり、計画を立てる際にこれを考慮することが欠かせません。
必ずしも受給できるとは限らない
個人事業主が助成金や補助金を利用する際のもう一つのデメリットは、必ずしも受給できるとは限らないという点です。これらの支援金は、予算や条件があらかじめ決められているため、希望したからといって全員が受給できるわけではありません。また、多くの場合、申請が競争率の高い状況にあります。
さらに、申請書の不備や条件の不適合などの理由により、申請が拒否されることもあるでしょう。受給が保証されていないため、助成金や補助金に依存することなく、事業計画を立てることが欠かせません。
また、申請が受理されなかった場合は自己資金ですべての経費を賄う必要があるため、十分な計画と戦略が求められます。
個人事業主の助成金に関してよくある質問
ここでは、個人事業主の助成金に関してよくある質問をまとめました。個人事業主が利用できる助成金制度について、さらに詳しく知りたい方は合わせてご覧ください。
個人事業主が開業した時に利用できる助成金は?
個人事業主が開業時に利用できる助成金例として、以下のような制度が挙げられます。
それぞれ支給対象となる条件についても記載しましたので、合わせてご覧ください。
- 地域雇用開発助成金:特定の地域に雇用保険適用事業所を設置し、従業員を雇用ことが条件
- 創業促進補助金:制度内容は自治体や補助金によって異なる
- IT導入補助金:生産性向上を目的としたITツールを導入した場合に支給
- 起業支援金:都市圏以外の地域で社会的事業を起業する場合に支給
東京で個人事業主が利用できる助成金は?
東京で個人事業主が利用できる助成金例として、以下のような制度が挙げられます。
- 創業助成金:都内で開業する個人事業主で一定の条件を満たした場合に支給
- 明日にチャレンジ中小企業基盤強化事業助成金:東京都内に本店があり、2年以上事業を継続している場合に支給
- 新製品・新技術開発助成事業:都内の本店もしくは支店で事業を行っている事業者、もしくは都内で副業を計画している個人に支給
このほかにも、東京都内で利用できる助成金はさまざまあるため、自治体の最新情報を確認しつつ、助成金の利用を検討すると良いかもしれません。
まとめ
今回は、個人事業主が利用できる助成金・補助金制度について解説しました。助成金や補助金制度は中小企業向けだと思われがちですが、個人事業主でも利用できる制度はたくさんあるため、自分の事業に適した制度を選び、活用することがポイントです。
なお、助成金や補助金は受け取れるまでに時間がかかることも考慮し、あらかじめ必要なリソースを備えておくのも欠かせません。
本記事で紹介した助成金・補助金を参考に、個人事業主として活用できる制度を検討してみてはいかがでしょうか。