「飲食店が利用できる助成金について知りたい」「自分の店舗が使える制度はあるのかな?」といったように、助成金や補助金制度について気になっている飲食店経営社の方は多いのではないでしょうか。
今回は、飲食店が利用できる助成金・補助金について、概要や対象となる条件、助成額、助成率などを詳しく解説します。
返済不要な補助金・助成金を活用し、経済的な負担を抑えて事業に取り組みたい方は、ぜひ参考にしてください。
助成金と補助金の違い
まずは、助成金と補助金の違いについて確認しましょう。それぞれの概要を解説します。
助成金とは
助成金は、一般的には要件を満たしていれば支給される傾向がありますが、補助金は予算や対象件数に限りがあり、抽選などで受給の可否が決まります。
また、助成金の応募期間は通常長めに設定されることがありますが、補助金の場合は通常、短い応募期間が設けられます。
補助金とは
補助金は、政府が特定の政策目標に基づいて選定した事業に対して提供される資金のことです。
これらの補助金は、予め設定された予算や対象事業の数に制限があり、申請された事業が採択される必要があります。ただし、申請しても補助金が必ずしも支給されるわけではないため注意が必要です。
飲食店が利用できる助成金・補助金10選
飲食店が利用できる助成金・補助金制度として、今回は以下の10種類を取り上げます。
- キャリアアップ助成金(正社員化支援)
- 雇用調整助成金
- 業務改善助成金
- 特定求職者雇用開発助成金
- トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)
- IT導入補助金
- 事業承継補助金
- 小規模事業者持続化補助金
それぞれの制度について、概要や利用するための条件、支給金額などを確認しましょう。
キャリアアップ助成金(正社員化支援)
キャリアアップ助成金は、非正規雇用労働者の雇用環境を改善し、処遇を向上させる事業主を支援する制度です。正社員化支援で受け取れる助成金には「正社員化コース」と「障害者正社員化コース」の2種類があります。
ほか、処遇改善支援として5つのコースも用意されていますが、今回は代表的な「正社員化コース」と「障害者正社員化コース」について解説します。
キャリアアップ助成金の対象となるのは、全コース共通で以下に該当する事業主です。
業種 | 条件 |
小売業(飲食店を含む) | 資本金5,000万円以下または労働者50人以下 |
サービス業 | 資本金5,000万円以下または労働者100人以下 |
卸売業 | 資本金1億円以下または労働者100人以下 |
その他の業種 | 資本金3億円以下または労働者300人以下 |
正社員化コースの場合、支給条件や金額は以下の通りです。
条件 | 金額 |
有期雇用から正規雇用(正社員) | 57万円 |
有期雇用から正規雇用(正社員)、なおかつ生産性向上要件を満たす場合 | 72万円 |
無期雇用から正規雇用(正社員) | 28万5,000円 |
無期雇用から正規雇用(正社員)、なおかつ生産性向上要件を満たす場合 | 36万円 |
また、障害者正社員化コースの場合、支給条件や金額は以下の通りです。
対象者 | 条件 | 金額 |
重度身体障害者、重度知的障害者および精神障害者 | 有期雇用から正規雇用(正社員) | 120万円 |
有期雇用から無期雇用(正社員) | 60万円 | |
無期雇用から正規雇用(正社員) | 60万円 | |
重度以外の身体障害者、重度以外の知的障害者、発達障害者、難病患者、高次脳機能障害と診断された者 | 有期雇用から正規雇用(正社員) | 90万円 |
有期雇用から無期雇用(正社員) | 45万円 | |
無期雇用から正規雇用(正社員) | 45万円 |
雇用調整助成金
雇用調整助成金は、経済的な事情によって事業の縮小が不可避となった際に、事業主を支援する仕組みです。この助成金は、雇用を守るために必要な休業や教育訓練、さらには出向に関連する一部の費用を助成し、企業の持続可能性を維持する役割を果たします。
雇用調整助成金は、以下すべての項目を満たす事業主が対象です。
- 雇用保険の適用事業主であること
- 売上高又は生産量などの事業活動を示す指標について、その最近3か月間の月平均値が前年同期に比べて10%以上減少していること
- 雇用保険被保険者数及び受け入れている派遣労働者数による雇用量を示す指標について、その最近3か月間の月平均値が前年同期に比べて、中小企業の場合は10%を超えてかつ4人以上、中小企業以外の場合は5%を超えてかつ6人以上増加していないこと
- 実地する雇用調整が一定の基準を満たすものであること。※
- 過去に雇用調整助成金の支給を受けたことがある事業主が新たに対象期間を設定する場合、直前の対象期間の満了の日の翌日から起算して一年を超えていること。ただし、新型コロナウイルス感染症の影響にともなう特例による雇用調整助成金(コロナ特例)の支給を受けたことがある場合は、当該特例に係る対象期間内の最後の判定基礎期間末日(助成金が支給されたものに限る。)の翌日から起算して一年を超えていること
※
- 休業の場合:労使間の協定により、所定労働日の全一日にわたって実施されるものであること
- 教育訓練の場合:休業の場合と同様の基準のほか、教育訓練の内容が、職業に関する知識・技能・技術の習得や向上を目的とするものであること
- 出向の場合:対象期間内に開始され、3か月以上1年以内に出向元事業所に復帰するものであること
助成金の額は、休業時には「事業主が支払った休業手当負担額」に、教育訓練時には「賃金負担額の相当額」に助成率をかけて算出されます。また、教育訓練時には1人1日あたり1,200円が追加される仕組みとなっています。
助成内容と受給額 | 助成率 |
休業を実施した場合の休業手当または教育訓練を実施した場合の賃金相当額、出向を行った場合の出向元事業主の負担額に対する助成(率)※対象労働者1人あたり8,490円が上限(令和5年8月1日現在) | 中小企業:2/3中小企業以外:1/2 |
教育訓練を実施したときの加算(額) | 1人1日当たり1,200円 |
業務改善助成金
業務改善助成金は、企業が生産性を向上させるために行う設備投資やコンサルティング導入、さらには従業員の能力向上のための教育訓練などを支援する制度です。この助成金は、企業が事業場内の最低賃金を一定額以上引き上げた場合にも適用され、これらの取り組みにかかる一部費用を助成します。企業にとっては、業務の効率化や生産性向上に貢献する重要な支援措置となります。
業務改善助成金の対象となるのは、以下のAもしくはBを満たす事業者です。
業種 | A:資本金または出資金 | B:常時使用する労働者 |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
その他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
なお、助成額は最低賃金の引き上げ額や労働者数によって異なります。
引き上げ額 | 引き上げ労働者数 | 助成上限額 | |
30人以上の事業者 | 30人未満の事業者 | ||
30円以上 | 1人 | 30万円 | 60万円 |
2〜3人 | 50万円 | 90万円 | |
4〜6人 | 70万円 | 100万円 | |
7人以上 | 100万円 | 120万円 | |
10人以上 | 120万円 | 130万円 | |
45円以上 | 1人 | 45万円 | 80万円 |
2〜3人 | 70万円 | 110万円 | |
4〜6人 | 100万円 | 140万円 | |
7人以上 | 150万円 | 160万円 | |
10人以上 | 180万円 | 180万円 | |
60円以上 | 1人 | 60万円 | 110万円 |
2〜3人 | 90万円 | 160万円 | |
4〜6人 | 150万円 | 190万円 | |
7人以上 | 230万円 | 230万円 | |
10人以上 | 300万円 | 300万円 | |
90円以上 | 1人 | 90万円 | 170万円 |
2〜3人 | 150万円 | 240万円 | |
4〜6人 | 270万円 | 290万円 | |
7人以上 | 450万円 | 450万円 | |
10人以上 | 600万円 | 600万円 |
引き上げのルールは明確に決められており、以下の3点があります。
- 全ての労働者の賃金を新しい事業場内最低賃金以上まで引き上げる
- 賃金を引き上げる労働者数に応じて助成上限額が変動する
- 事業場内最低賃金の者以外でも、申請コースの額以上賃金を引き上げた場合は引上げ人数にカウントされる
特定求職者雇用開発助成金
特定求職者雇用開発助成金は、特定の条件に該当する求職者を雇用する際に提供される助成金です。この助成金には、以下の3つのコースがあります。
- 特定就職困難者コース
- 発達障害・難治性疾患患者雇用開発コース
- 障害者初回雇用コース
それぞれのコースについて、特徴をまとめましたのでご覧ください。
コース | 特徴 |
特定就職困難者コース | 障がい者や高齢者、母子・父子家庭など、就職が難しい人々を雇用する企業が対象雇用期間は雇用された労働者を65歳まで継続して雇用し、期間は2年以上障がいの程度や企業の規模に応じて変動し、最大3年間で年額240万円を受け取れる(中小企業では100万円) |
発達障害・難治性疾患患者雇用開発コース | 発達障害や難治性疾患を抱える個人を雇用する企業が対象雇用期間は65歳まで継続し、期間は2年以上ハローワークを通じて雇用し、半年後に職場訪問を受ける必要がある中小企業の場合、短時間労働者1人あたり年額80万円を2年間受け取れる(それ以外の労働者については年額120万円を2年間) |
障害者初回雇用コース | 中小企業(従業員数が43.5人から300人)が対象初めて障がい者を雇用した場合に適用され、雇用期間は法定の雇用率を達成するまで雇用開始日から3か月後までの期間に120万円を受け取れる |
トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)
トライアル雇用とは、労働者と企業が3か月間の有期契約で雇用する制度です。この期間終了時に、企業と雇用者が合意すれば、その労働者を正規の社員として雇用することが可能です。厚生労働省の情報によると、トライアル雇用終了後、約8割の労働者が正規雇用に移行しています。
ただし、企業によっては必ずしも全ての労働者を正規雇用としない場合もあります。法的には、採用についての強制はありません。
トライアル雇用の対象者は、45歳以上の中高年齢者、45歳未満の若年者、母子家庭の母、父子家庭の父、季節労働者、中国残留邦人等永住帰国者、障がい者、日雇労働者、およびホームレスの方々などです。
なお、事業主の条件として、以下も確認しておきましょう。
- 1週間当たりの所定労働時間が30時間(日雇労働者、ホームレス、住居喪失不安定就労者の方は20時間)を下回らないこと
- 一定期間解雇をしたことのない事業主であること
トライアル雇用助成金の支給例として、母子家庭の母や父子家庭の父、また若者雇用促進法に基づき優良企業として認定された事業主が35歳未満の求職者を雇用する場合、1人当たり月額最大5万円、支給期間は最長で3か月間です。
IT導入補助金
IT導入補助金は、中小企業や小規模事業者がビジネスの成長や業務の効率化を目指して、ITツールを取り入れるための支援制度です。
この補助金を受ける際、導入可能なツールはIT導入補助金事務局に登録されているものに限られます。また、補助金を申請する際には、「IT導入支援事業者」との連携が必要です。
IT導入補助金の対象となる事業者は、以下に該当する小規模事業者と中小企業が含まれます。
対象事業者 | 業種 | 条件 |
小規模事業者 | 商業・サービス業 | 従業員が5人以下 |
サービス業(宿泊業・娯楽業) | 従業員が20人以下 | |
製造業・その他 | 従業員20人以下 | |
中小企業 | 製造業 | 資本3億円以下もしくは従業員300人以下 |
卸売業 | 資本1億円以下もしくは従業員100人以下 | |
サービス業 | 資本5,000万円以下もしくは従業員100人以下 | |
小売業 | 資本5,000万円以下もしくは従業員50人以下 | |
ソフトウェア業 | 資本3億円以下もしくは従業員300人以下 | |
旅館業 | 資本5,000万円以下もしくは従業員200人以下 | |
その他の業種 | 資本3億円以下もしくは従業員300人 |
なお、補助額は5万円から450万円、補助率は1/2から3/4です。
申請枠 | 補助額 | 補助率 |
通常枠(A類型) | 5万〜150万円未満 | 1/2以内 |
回復型賃上げ・雇用拡大枠 | 150万円~450万円以下 | 1/2以内 |
デジタル枠 | 5万円~100万円 | 1/2以内 |
グローバル市場開拓枠 | ~50万円以下 | 3/4以内 |
グリーン枠 | 50万円超~350万円 | 2/3以内 |
事業承継補助金
事業承継補助金は、正式には「事業承継・引継ぎ補助金」と呼ばれ、日本国内の経済活性化を目的とした補助金制度です。この補助金は、事業の承継に関連する費用や、事業再編や統合によって新たな取り組みを行う際に必要な費用の一部を補助金として受け取ることができます。
事業の引継ぎが行われた後、その事業を更に発展させるために必要な費用や、M&Aに関連する費用としても活用できます。
事業承継補助金は、経営革新事業、専門家活用事業、廃業・再チャレンジ事業の3種類に分かれています。
- 経営革新事業:経営資源の引き継ぎ型創業や事業承継(家族内の承継も含む)、過去数年間にM&Aを行った者、または補助事業期間内にM&Aを計画している者が対象
- 専門家活用事業:補助事業期間中に経営資源の譲渡または受け入れを行う者が対象
- 廃業・再チャレンジ事業:事業承継やM&Aを検討または実施し、それに伴って廃業などを行う者が対象
なお、事業承継補助金の補助上限額や補助率については、以下をご覧ください。
類型 | 補助上限額 | 補助率 |
経営革新事業 | 〜600万円 | 1/2・2/3 |
600〜800万円 ※一定の賃上げを実施する場合 | 1/2 | |
専門家活用事業 | 〜600万円※M&A未成約の場合は〜300万円 | 1/2・2/3 |
廃業・再チャレンジ事業 | 〜150万円 | 1/2・2/3 |
小規模事業者持続化補助金
小規模事業者持続化補助金は、小規模事業者が販路の開拓や業務の効率化を図るための支援制度です。この補助金を利用することで、機械装置の導入費やWebサイト・チラシの作成費、さらには展示会への出店費など、さまざまな経費に補助金を充てることが可能です。
小規模事業者持続化補助金は、以下に該当する小規模事業者が対象です。
業種 | 条件 |
商業・サービス業 | 5人以下 |
サービス業(宿泊業・娯楽業) | 20人以下 |
製造業・その他 | 20人以下 |
補助額は50万〜200万円の間で決定し、補助率は全枠共通で2/3です。
申請枠 | 補助額 | 補助率 |
通常枠 | 50万円 | 2/3 |
賃金引上げ枠 | 200万円 | 2/3 |
卒業枠 | 200万円 | 2/3 |
後継者支援枠 | 200万円 | 2/3 |
創業枠 | 200万円 | 2/3 |
まとめ
今回は、飲食店が利用できる助成金や補助金について、計8つの制度を紹介しました。制度によって適用される経費項目や内容、条件などが異なるため、自店舗に適した制度を検討することが欠かせません。
また、これらの制度は申請したからと言って必ずしも利用できるものではないため、もし受給できなかった場合の社内リソースを備えておくことも大切です。助成金・補助金を受け取れる場合でも、支払われるのはプロジェクトの終了後であるため、初期費用は自社で賄う必要がある点も注意しましょう。
記事の内容を参考に、飲食店の経営改善や成長につながる助成金・補助金を利用してみてはいかがでしょうか。