個人事業主が法人化を考える際、利用できる助成金や補助金があるのをご存知でしょうか。
本記事では、個人事業から法人化して会社を設立する際に利用できる助成金制度について、詳しく解説します。
法人成りを検討している方は、ぜひ参考にしてください。
「個人事業から法人化(法人成り)する」とはどういうこと?
法人化(法人成り)は、個人事業主が事業を法人として再編し、個人の経営から法人組織の運営へ移行するプロセスです。法人とは、法律によって認められた組織のことを指し、その法的人格を法人格と呼びます。
法人化によって、事業は法人組織に引き継がれます。経営者は引き続き事業の決定権を持ちますが、取引先や金融機関との契約においては、法人格が契約の当事者となります。
個人事業から法人化を考えても良い3つのタイミング
個人事業から法人化を考えても良いタイミングとして、以下の3つが挙げられます。
- 年収が800万円を超えた
- 年間売り上げが1,000万円を超えた
- 事業拡大を検討している
それぞれのケースについて、法人化すると何が変わるのか、見ていきましょう。
年収が800万円を超えた
年収が800万円を超えた段階は、個人事業主が法人化を検討すべき一つのタイミングです。
個人事業主は所得税が累進課税され、所得が増えるにつれて税率が上昇し、最高で45%になります。一方、法人税は最高で23.20%であり、年収800万円を超えた部分も一定の税率が適用されます。
この差により、年収が800万円を超えた時点で法人化することで税金を節約できる可能性が高まるでしょう。
年間売り上げが1,000万円を超えた
年間売り上げが1,000万円を超えた段階も、個人事業主が法人化を考えるべきタイミングの一つといえます。
1,000万円以下の売り上げでは消費税の納税を免除されますが、1,000万円を超えると2年後から課税事業者としての義務が発生します。個人事業主が法人化すると、このカウントがリセットされ、売り上げが1,000万円を超えた翌年に法人化すれば、課税事業者になるのはそこから2年後となります。
ただし、2023年10月からのインボイス制度の導入により、売上1,000万円以下でも課税事業者になるケースが増えるため、売上1,000万円が法人化の目安とは限りません。
事業拡大を検討している
事業拡大を検討している場合も、個人事業主から法人化を考えるべきタイミングです。法人化によって資金調達が容易になり、銀行からの融資も受けやすくなります。
また、法人限定の仕事も受注可能になるため、企業からの信頼や信用も高まるでしょう。一部の企業は法人にしか仕事を発注しないことがあり、法人化によって限定された案件にも参加できるようになります。
さらに、法人であることはビジネスシーンにおける信頼性を高め、営業活動が有利になることが特長です。これらの理由から、事業拡大を考える際には法人化を検討しても良いと考えられます。
個人事業から法人化する際に使える助成金・補助金一覧
個人事業から法人化する際に使える助成金・補助金として、ここでは以下の4つの制度を取り上げます。
- 小規模事業者持続化補助金
- ものづくり補助金
- IT導入補助金
- 事業承継補助金
それぞれの制度について、概要を確認しましょう。
小規模事業者持続化補助金
小規模事業者持続化補助金は、販路の拡大や業務の効率化を目指す小規模事業者が利用できる補助金の制度です。新しい機械装置の導入によって生産性を向上させたり、効果的なウェブサイトやチラシを制作して販路を拡大したりすることで、事業の成長を支援することを目的としています。
小規模事業者持続化補助金は、以下に該当する小規模事業者が対象です。
業種 | 条件 |
商業・サービス業 | 5人以下 |
サービス業(宿泊業・娯楽業) | 20人以下 |
製造業・その他 | 20人以下 |
補助額は50万〜200万円、補助率は全枠共通で2/3となります。
申請枠 | 補助額 | 補助率 |
通常枠 | 50万円 | 2/3 |
賃金引上げ枠 | 200万円 | 2/3 |
卒業枠 | 200万円 | 2/3 |
後継者支援枠 | 200万円 | 2/3 |
創業枠 | 200万円 | 2/3 |
ものづくり補助金
ものづくり補助金は、革新的な商品やサービスの開発、または生産プロセスの改善を促進するための支援制度です。
この補助金の対象となるのは、革新的なプロジェクトを展開する小規模事業者や中小企業です。詳しい条件については、以下にまとめました。
対象事業者 | 業種 | 条件 |
小規模事業者 | 商業・サービス業 | 従業員が5人以下 |
サービス業(宿泊業・娯楽業) | 従業員が20人以下 | |
製造業・その他 | 従業員20人以下 | |
中小企業 | 製造業 | 資本3億円以下もしくは従業員300人以下 |
卸売業 | 資本1億円以下もしくは従業員100人以下 | |
サービス業 | 資本5,000万円以下もしくは従業員100人以下 | |
小売業 | 資本5,000万円以下もしくは従業員50人以下 | |
ソフトウェア業 | 資本3億円以下もしくは従業員300人以下 | |
旅館業 | 資本5,000万円以下もしくは従業員200人以下 | |
その他の業種 | 資本3億円以下もしくは従業員300人 |
なお、補助額は100万円から4,000万円、補助率は1/2から2/3となります。
申請枠 | 補助額 | 補助率 |
通常枠 | 100万~1,250万円 | 1/2(小規模事業者または再生事業者は2/3) |
回復型賃上げ・雇用拡大枠 | 100万~1,250万円 | 2/3 |
デジタル枠 | 100万~1,250万円 | 2/3 |
グローバル市場開拓枠 | 100万~3,000万円 | 1/2(小規模事業者または再生事業者は3分の2) |
グリーン枠 | 100万~4,000万円 | 2/3 |
IT導入補助金
IT導入補助金は、ビジネスの拡大や業務の合理化を目指す中小企業や小規模事業者が、ITツールの導入を支援する際に利用できる制度です。
この補助金を得るためには、導入可能なツールはIT導入補助金事務局に登録されているものに限定されます。加えて、補助金を申請する際には、「IT導入支援事業者」との連携が求められます。
IT導入補助金は、以下に該当する小規模事業者と中小企業が対象です。
対象事業者 | 業種 | 条件 |
小規模事業者 | 商業・サービス業 | 従業員が5人以下 |
サービス業(宿泊業・娯楽業) | 従業員が20人以下 | |
製造業・その他 | 従業員20人以下 | |
中小企業 | 製造業 | 資本3億円以下もしくは従業員300人以下 |
卸売業 | 資本1億円以下もしくは従業員100人以下 | |
サービス業 | 資本5,000万円以下もしくは従業員100人以下 | |
小売業 | 資本5,000万円以下もしくは従業員50人以下 | |
ソフトウェア業 | 資本3億円以下もしくは従業員300人以下 | |
旅館業 | 資本5,000万円以下もしくは従業員200人以下 | |
その他の業種 | 資本3億円以下もしくは従業員300人 |
なお、補助額は5万円から450万円、補助率は1/2から3/4となります。
申請枠 | 補助額 | 補助率 |
通常枠(A類型) | 5万〜150万円未満 | 1/2以内 |
回復型賃上げ・雇用拡大枠 | 150万円~450万円以下 | 1/2以内 |
デジタル枠 | 5万円~100万円 | 1/2以内 |
グローバル市場開拓枠 | ~50万円以下 | 3/4以内 |
グリーン枠 | 50万円超~350万円 | 2/3以内 |
事業承継補助金
事業承継補助金は、日本国内の経済活性化を目的とした補助金制度です。この補助金は、事業の承継に関わる費用や、事業再編や統合によって新たな取り組みを行う際に必要な費用の一部を補助金として受け取ることができます。また、事業の引継ぎ後には、事業の更なる発展やM&Aに関連する費用としても活用できます。
事業承継補助金は、経営革新事業、専門家活用事業、廃業・再チャレンジ事業の3種類に分かれています。
- 経営革新事業:経営資源の引き継ぎ型創業や事業承継(家族内の承継も含む)、過去数年間にM&Aを行った者、または補助事業期間内にM&Aを計画している者が対象
- 専門家活用事業:補助事業期間中に経営資源の譲渡または受け入れを行う者が対象
- 廃業・再チャレンジ事業:事業承継やM&Aを検討または実施し、それに伴って廃業などを行う者が対象
なお、事業承継補助金の補助上限額や補助率は以下の通りです。
類型 | 補助上限額 | 補助率 |
経営革新事業 | 〜600万円 | 1/2・2/3 |
600〜800万円 ※一定の賃上げを実施する場合 | 1/2 | |
専門家活用事業 | 〜600万円※M&A未成約の場合は〜300万円 | 1/2・2/3 |
廃業・再チャレンジ事業 | 〜150万円 | 1/2・2/3 |
個人事業から法人化するメリット
個人事業から法人化するメリットとして、以下の7点が挙げられます。
- 税制面で有利になる
- 採用面で有利になる
- 事業としての信頼度が高まる
- 社会保険に加入できる
- 赤字を最大10年繰り越せる
- 決算期を自由に決められる
- 責任が個人ではなく会社に発生する
それぞれの項目について解説します。
税制面で有利になる
個人事業から法人化する1つ目のメリットは、税制上の利点があることです。
法人化により、役員報酬や退職金を経費として計上できるため、税金を節約できます。役員報酬は所得を分散する手段として活用でき、家族や親族も役員として雇用することでさらに所得を分散させることができます。
また、法人であれば自身に対する退職金も損金として認められます。これにより、数百万円から数千万円の節税が可能です。
ただし、給与や退職金の金額は職務内容に合理的である必要があり、法外な金額の設定は税務署から指摘される可能性があるため注意しましょう。
採用面で有利になる
個人事業から法人化する2つ目のメリットは、採用面での利点が得られることです。
法人化により、信用や信頼が高まり、これは取引先や金融機関だけでなく、求職者にとっても魅力的な要素となります。特に近年の傾向では、日本人は安心や安全を求める傾向が強まっています。そのため、法人が出している求人の方が個人事業主よりも求職者が集まりやすくなります。
このように、個人事業から法人化することで、採用面での有利さが得られる仕組みです。
事業としての信頼度が高まる
個人事業から法人化する3つ目のメリットは、事業に対する信頼度が向上することです。
この信頼度の向上は、取引先からの信用が増し、より大規模な仕事を任せられるようになったり、金融機関からの信用が高まり融資を受けやすくなったりする利点があります。
事業の信頼度が高まることは、事業の安定性や成長にとって重要な要素です。
社会保険に加入できる
個人事業から法人化する4つ目のメリットは、経営者としても社会保険に加入できるようになることです。
社会保険は保障が充実しており、収入条件を満たした配偶者などを被扶養者にすることも可能です。そのため、多くの個人事業主が、できるだけ早く社会保険に加入したいと考えています。
ただし、法人化しても会社社長は労働基準法における労働者ではないため、労働保険(雇用保険・労災保険)の加入対象とはなりません。
赤字を最大10年繰り越せる
個人事業から法人化する5つ目のメリットは、赤字を最大10年間繰り越せることです。
個人事業主は、赤字(欠損金)の繰り越し期間が3年間に制限されていますが、法人では最大10年間繰り越すことができます。このため、長期にわたる赤字状態が予想されるビジネスの場合、法人化することで赤字期間を最大限に活用できます。
ただし、個人事業主の3年間の赤字繰り越しは、青色申告の場合にのみ適用されることに注意しましょう。
決算期を自由に決められる
個人事業から法人化する6つ目のメリットは、決算期を自由に決められることです。
個人事業主は通常、年末が決算期として固定されますが、法人化すると決算期を自由に設定できます。この柔軟性により、法人は繁忙期を避けたり、資金繰りを考慮して決算期を調整可能です。
特に、年末が繁忙期となる事業では、自由な決算期設定が大きなメリットとなります。また、必要に応じて税務署に届出を行い、後からでも決算期を変更することが可能です。
責任が個人ではなく会社に発生する
個人事業から法人化する7つ目のメリットは、責任が個人から法人に移ることです。
法人としての取引や契約に関しては、個人の責任ではなく法人が責任を負うことになります。例えば、法人が借金をしていても、その返済責任は法人に帰属し、社長個人には影響しません。このように法人化することで、責任を法人レベルで管理することが可能になります。
ただし、注意すべき点もあります。例えば、社長が法人の連帯保証人である場合は、個人に返済責任が生じる可能性があるため、注意が必要です。連帯保証人として借金を保証した場合、法人が債務不履行に陥った際には、社長個人が責任を負うことになります。
個人事業から法人化するデメリット
反対に、個人事業から法人化するデメリットとして、以下のような項目が挙げられます。
- 設立や廃業の際に費用が発生する
- 事務作業が複雑になる
- 赤字でも納税義務がある
- 従業員も社会保険に加入する必要がある
それぞれの項目について確認しましょう。
設立や廃業の際に費用が発生する
個人事業から法人化するデメリットの1つ目は、法人を設立したり、閉鎖したりする際には、手続きや費用が必要であることです。
例えば、株式会社の設立には約22万円~25万円、合同会社の場合は約10万円~11万円程度の費用がかかります。このような費用が発生するため、法人化は簡単に行えず、慎重な計画と費用の確保が必要です。
事務作業が複雑になる
個人事業から法人化するデメリットの2つ目は、事務作業や会計処理の手間が増加することです。
このため、本業に専念したい場合は、会計事務所との顧問契約を検討するか、新たに事務員を雇う必要があるでしょう。ただし、顧問契約や事務員の雇用には追加のコストがかかりますので、慎重な判断が求められます。
赤字でも納税義務がある
個人事業から法人化するデメリットの3つ目は、個人事業主から法人化する場合、赤字であっても法人住民税を支払わなければならないことです。
法人の場合、住民税の均等割があります。地域や会社規模によりますが、最低でも年に約7万円の住民税がかかるため、個人事業主のように赤字でも0円にならず、法人住民税を支払う義務が生じます。
従業員も社会保険に加入する必要がある
個人事業から法人化するデメリットの4つ目は、従業員も社会保険に加入する必要があることです。
個人事業主の場合、雇用している従業員が5名以下であれば社会保険の加入は任意ですが、法人化すると従業員数や雇用の有無にかかわらず、社会保険の加入が義務付けられます。社会保険料は会社と従業員が折半で負担するため、法人化に伴うコスト計算が必要です。
まとめ
今回は、個人事業から法人化した場合に利用できる助成金について、いくつかの制度を紹介しました。法人化するだけでも費用が発生するため、利用できる制度は上手く活用し、コスト負担を抑えて経営を進めると良いかもしれません。
記事で紹介した制度例を参考に、事業内容や条件にマッチする助成金・補助金の利用計画を立ててみましょう。