「訪問介護事業所を立ち上げたいと思っており、利用できる助成金があれば知りたい」「事業所の立ち上げにはどのくらい費用が必要なのか知りたい」といった疑問を持っている方も多いのではないでしょうか。
今回は、訪問介護事業所の立ち上げで使える助成金・補助金制度を紹介します。また、事業所の立ち上げ方や具体的な費用目安も解説しますので、ぜひ参考にしてください。
訪問介護事業所立ち上げで使える助成金・補助金制度一覧
訪問介護事業所立ち上げで使える助成金・補助金制度として、以下の6つが挙げられます。
- 介護労働環境向上奨励金
- 介護福祉機器等助成
- 事業再構築補助金
- IT導入補助金
- 特定求職者雇用開発助成金
- トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)
それぞれの制度について、内容を解説します。
介護労働環境向上奨励金
介護労働環境向上奨励金は、介護労働者の労働環境を向上・改善するための助成金であり、「介護福祉機器等助成」と「雇用管理制度等助成」の2種類に分けられます。
この制度の対象となる事業主は、以下の通りです。(両制度共通)
- 介護サービスの提供を業として行う事業主である(他業種との兼業も可)
- 雇用保険の適用事業主(企業単位)である
- 「介護労働者雇用管理責任者」を選任し、事業所内に周知を図っている
- 賃金台帳、労働者名簿、出勤簿などの法定帳簿類を備え、都道府県労働局の要請により提出できる
- 都道府県労働局が行う審査や必要に応じ実施する現地確認に協力する
- 導入・運用計画、または雇用管理制度整備等計画の提出日の6ヵ月前から、事業主都合で労働者を解雇 (退職勧奨による離職を含む)していない
- 労働保険料を滞納したことがない
- 過去3年以内に助成金の不正受給をしていない
- 本奨励金と同一の理由により、他の助成金を受給していない
- 過去に労働関係法令に違反したことがある場合は、送検処分を受けていない。また、行政機関の是正 指導を受けて改善している。
なお、助成金額は種類によってそれぞれ異なります。
種類 | 支給条件 | 支給額 |
介護福祉機器等助成 | 介護労働者の身体的負担軽減のために介護福祉機器を導入し、適切な運用によって労働環境の改善がみられた場合 | 介護福祉機器の導入費用の1/2(上限300万円) |
雇用管理制度等助成 | 介護労働者の福祉増進を図るため、雇用管理改善につながる制度等を導入し、適切な実施によって一定の効果が得られた場合に | 制度等の導入に要した費用1/2(上限100万円) |
介護福祉機器等助成
介護福祉機器等助成とは、介護福祉施設で使用する機器の購入費用を支援する助成金です。助成対象は1つ10万円以上の機器に限られ、なおかつ介護労働者の身体的負担を直接的に軽減できるものに限定されます。
注意点として、介護福祉機器等助成は令和6年3月31日で廃止となっており、令和6年4月以降は「導入・運用計画書」を提出済みの事業主のみが申請可能です。
参考:https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001218588.pdf
この制度の要件として、介護事業主は以下を実施する必要があります。
- 導入・運用計画を作成し、管轄の労働局長から認定を受ける
- 介護福祉機器を導入し、適切な運用をお登録方法の合う
- 導入・運用計画期間の終了から1年経過するまでの離職率を目標値以上に低下させる
離職率の目標値は、雇用保険一般被保険者の人数に対し、以下のように定められています。
- 1〜9人:15%
- 10〜29人:10%
- 30〜99人:7%
- 100〜299人:5%
- 300人以上:3%
なお、この制度の助成額は以下の通りです。
助成対象費用 | 支給額 |
介護福祉機器の導入費用(利子を含む) | 左記の合計額の20%(賃金要件を満たした場合は35万円) ※上限は150万円 |
保守契約費 | |
機器の使用を徹底させるための研修 |
事業再構築補助金
事業再構築補助金は、事業再編や業態転換、異業種参入、国内展開などを検討する中小企業向けの助成金制度です。
この補助金は、事業再構築を計画する中小企業や中堅企業のうち、以下に該当する企業が対象となります。
対象事業者 | 業種 | 条件 |
中小企業 | 製造業 | 資本3億円以下もしくは従業員300人以下 |
卸売業 | 資本1億円以下もしくは従業員100人以下 | |
サービス業 | 資本5,000万円以下もしくは従業員100人以下 | |
小売業 | 資本5,000万円以下もしくは従業員50人以下 | |
ソフトウェア業 | 資本3億円以下もしくは従業員300人以下 | |
旅館業 | 資本5,000万円以下もしくは従業員200人以下 | |
その他の業種 | 資本3億円以下もしくは従業員300人 | |
中堅企業 | 上に並ぶ中小企業以外 | 資本金10万円未満 |
利用する枠によって補助額が異なり、100万円から1.5億円まで幅広く設定されています。なお、補助率は1/2から2/3の間で決定します。
申請枠 | 補助額 | 補助率 |
成長枠 | 100万~7,000万円 | 中小企業:1/2(大規模な賃上げを実施する場合は2/3)中堅企業:1/3(大規模な賃上げ実施する場合は1/2) |
グリーン成長枠 | 100万~1.5億円 | 中小企業:1/2(大規模な賃上げを実施する場合は2/3)中堅企業:1/3(大規模な賃上げ実施する場合は1/2) |
卒業促進枠 | 成長枠・グリーン成長枠に準ずる | 中小企業:1/2中堅企業:1/3 |
大規模賃金引上促進枠 | 100万~3,000万円 | 中小企業:1/2中堅企業:1/3 |
産業構造転換枠 | 100万~7,000万円 | 中小企業:2/3中堅企業:1/2 |
物価高騰対策・回復再生応援枠 | 100万~3,000万円 | 中小企業:2/3中堅企業:1/2 |
最低賃金枠 | 100万~1,500万円 | 中小企業:3/4中堅企業:2/3 |
IT導入補助金
IT導入補助金は、中小企業や小規模事業者がITツールを導入し、生産性向上や事業拡大を図る際に活用できる助成金です。導入可能なツールは、IT導入補助金事務局に登録されたものに限定されており、申請時には「IT導入支援事業者」との連携が必要です。
この補助金の対象となる事業者は、以下の小規模事業者や中小企業が含まれます。
対象事業者 | 業種 | 条件 |
小規模事業者 | 商業・サービス業 | 従業員が5人以下 |
サービス業(宿泊業・娯楽業) | 従業員が20人以下 | |
製造業・その他 | 従業員20人以下 | |
中小企業 | 製造業 | 資本3億円以下もしくは従業員300人以下 |
卸売業 | 資本1億円以下もしくは従業員100人以下 | |
サービス業 | 資本5,000万円以下もしくは従業員100人以下 | |
小売業 | 資本5,000万円以下もしくは従業員50人以下 | |
ソフトウェア業 | 資本3億円以下もしくは従業員300人以下 | |
旅館業 | 資本5,000万円以下もしくは従業員200人以下 | |
その他の業種 | 資本3億円以下もしくは従業員300人 |
補助額・補助率については以下の通りです。
申請枠 | 補助額 | 補助率 |
通常枠 | 5万〜150万円未満 | 1/2以内 |
インボイス枠(インボイス対応類型) | 10万〜350万円以下 | 1/2〜4/5以内 |
インボイス枠(電子取引類型) | (下限なし)〜350万円以下 | 1/2〜2/3以内 |
セキュリティ対策推進枠 | 5万〜100万円以下 | 1/2以内 |
複数社連携IT導入枠 | 補助対象経費によって異なる(3,000万円以下) | 1/2〜4/5以内 |
特定求職者雇用開発助成金
特定求職者雇用開発助成金は、特定の要件を満たす求職者の雇用時に利用できる助成金で、以下3つのコースに分けられています。
- 特定就職困難者コース
- 発達障害・難治性疾患患者雇用開発コース
- 障害者初回雇用コース
それぞれのコースについて、簡単に解説します。
特定就職困難者コース
特定就職困難者コースは、雇用する人材が障がい者や高齢者、または母子・父子家庭など、就職が難しい人々である場合、企業に対して支給される助成金制度です。この助成金を受ける条件として、労働者を65歳まで継続的に雇用し、かつその期間が2年以上であることが求められます。
支給額は、障がいの程度や企業の規模によって異なります。
例として、短時間労働者には年額80万円(中小企業では30万円)が最大2年間(中小企業では1年間)支給され、重度の障がい者や45歳以上の障がい者、精神障がい者の場合は年額240万円(中小企業では100万円)が最大3年間(中小企業では1年6ヶ月)支給されます。
発達障害・難治性疾患患者雇用開発コース
発達障害・難治性疾患患者雇用開発コースは、発達障害や難治性疾患を抱えている人々を雇用する際に利用できます。
この助成金の受給条件として、ハローワークを通じて対象の労働者を雇用し、2年以上かつ65歳まで雇用し続けることが求められます。また、事業主は雇用した労働者に適用した配慮を報告し、約半年後にハローワーク職員による職場訪問を受ける必要があります。
受給額については、以下の通りです。
- 中小企業の場合:短時間労働者1人あたり年額80万円を2年間(それ以外の労働者には、年額120万円を2年間にわたって支給)
- 中小企業以外の場合:短時間労働者1人あたり年額30万円を1年間(それ以外の労働者には、1人あたり年額50万円を1年間にわたって支給)
障害者初回雇用コース
障害者初回雇用コースは、初めて障がい者を雇用する中小企業が利用できます。この制度の対象となるのは、従業員数が43.5人から300人の中小企業です。
助成額は最高120万円に設定されており、雇用開始日から3か月後までの期間に、法定の雇用率を達成した場合に支給されます。
トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)
トライアル雇用助成金は、正規雇用する前に一定期間の試用期間を設け、求職者の適性や能力を評価する制度です。制度を利用できる期間は、通常3か月までとなります。この制度の目的は、企業と求職者同士が理解し合い、雇用機会を提供することにあります。
この制度を利用するための要件は全部で26項目あり、いくつか抜粋したものを以下に紹介します。
- トライアル雇用の対象者を、紹介日前に雇用を約束していない事業主
- トライアル雇用を行った企業の事業主または取締役の3親等以内の親族以外の対象者を雇用した事業主
- トライアル雇用を開始した日の前日から過去3年間に、同じトライアル雇用の対象者を雇用していない事業主
母子家庭の母や父子家庭の父、もしくは35歳未満の求職者(若者雇用促進法に基づき優良企業として認定された事業主に限る)がいる場合、最長3ヶ月にわたって1人当たり月額最大5万円の助成を受けられます。
なお、一般トライアルコースで支援を受ける場合、求職者が以下の条件に満たしていなければなりません。
- 紹介日時点で、就労経験のない職業に就くことを希望する
- 紹介日時点で、学校卒業後3年以内で、卒業後、安定した職業に就いていない
- 紹介日の前日から過去2年以内に、2回以上離職や転職を繰り返している
- 紹介日の前日時点で、離職している期間が1年を超えている
- 妊娠、出産・育児を理由に離職し、紹介日の前日時点で、安定した職業に就いて
- いない期間が1年を超えている
- 就職の援助を行うに当たって、特別な配慮を要する
訪問介護事業所の立ち上げ方とは?
訪問介護事業所を立ち上げるための流れとして、基本的には以下の流れで進めます。
- 事業内容を決める
- 法人登記や資金調達を済ませる
- 立ち上げに必要な準備を整える
- 指定申請書類を提出する
- 指定通知書の交付後、事業開始
それぞれの手順について解説します。
事業内容を決める
訪問介護事業所を立ち上げる際には、まず事業内容を具体化することが不可欠です。どのような目的で、どの層を対象に、どの規模で、どんなサービスを提供するかを明確に定めましょう。
また、地域や物件の選定、高齢者数や要介護者数の調査、売上予測の算出も重要です。事業エリアの特性やターゲット層の分布を考慮し、具体的な立ち上げ計画を練ることが欠かせません。
法人登記や資金調達を済ませる
訪問介護事業所を設立するには、法人登記と資金調達が必要です。介護福祉事業者の指定を受けるためには、株式会社、合同会社、NPO法人などの法人格を有していることが必須条件となります。
また、資金調達も必要になるケースが多いでしょう。訪問介護事業所の設立には、法人登記の費用に加え、人件費や機材費、広告費、家賃などの初期費用がかかるため、法人登記と資金調達を行いましょう。
立ち上げに必要な準備を整える
法人登記と資金調達を済ませたら、事業立ち上げの準備に入ります。
まずは、介護職員を採用する必要があります。介護福祉事業所では、管理者や介護の専門資格を持つ人材が必要となるため、事業所の規模や運営方針に応じて適切な人員を採用しましょう。
また、訪問介護事業に適した利便性やアクセスの良い物件を契約することも欠かせません。
そのほか、必要な設備や備品も揃えておくことで、事業所の立ち上げをスムーズに進められます。オフィス用品や介護機器などの必要備品のほか、来訪者との相談スペースや衛生設備も完備し、事業所の運営に必要な設備を準備しておきましょう。
指定申請書類を提出する
訪問介護事業所を開業するには、自治体への指定申請が必要です。指定申請とは、介護保険法に基づいた介護事業者として認定されるための書類提出手続きを指します。
必要な書類には、申請書や登記事項証明書、従業者の勤務体制がわかるもの、 及び、勤務形態一覧表、資格証明書の写しなどがあります。具体的な必要書類は事業内容や自治体によって異なるため、事前に確認し、作成しておくと安心です。
指定通知書の交付後、事業開始
指定通知書を受け取った後は、指定時研修を受講しましょう。この研修では、介護事業の運営に必要な知識や技術を身につけることが求められます。指定時研修を修了すると、指定書が交付され、訪問介護事業所の開設が認められます。
開業準備の一環として、介護ソフトの導入や運営マニュアルの作成、従業員の研修なども必要です。
開業予定日が決まったら地域の居宅介護支援事業所や地域包括支援センターに営業活動を行い、利用者を獲得するための準備を進めましょう。これらの手続きが全て終われば、訪問介護事業所としての事業を開始する準備が整います。
訪問介護事業所の立ち上げにかかる費用目安
訪問介護事業所の立ち上げにかかる費用の目安として、初期費用だけでも300〜500万円程度が必要になると考えられます。また、開業後の運転資金を合わせると、およそ800〜1,000万円ほどの資金があると安心です。
最初から収益が安定するとは限らないため、当面の運転資金を含めた初期費用を用意しておくと良いでしょう。
ここでは、訪問介護事業所を立ち上げる際の費用に関するポイントとして以下の2つを紹介します。
- 資金調達方法を考えておく
- 利用できる助成金を確認しておく
それぞれについて解説します。
ポイント1:資金調達方法を考えておく
訪問介護事業所を立ち上げる際には、資金調達が必要になるケースが多くあります。
資金調達といっても、銀行からの融資や投資家からの資金提供などさまざまな方法があるため、事業計画や予算を明確にし、適切な資金調達方法を検討しましょう。また、返済計画やリスク管理も忘れずに行い、事業の安定した運営を目指すことが欠かせません。
ポイント2:利用できる助成金を確認しておく
訪問介護事業所を立ち上げる際には、利用できる助成金を確認することも大切です。
自治体や国では、介護事業に関する助成金や補助金、地域振興策に関連する支援制度などを提供しています。これらの助成金を活用することで、設立や運営にかかる費用を抑えやすくなるため、条件や申請方法を把握し、適切に活用して事業の拡大や改善を図りましょう。
ただし、初期費用の補助として助成金を利用したいと考えている場合、助成金や補助金は通常事業終了後に支給されるため、別の方法で資金調達する必要がある点に注意してください。
訪問介護事業所の立ち上げに関するよくある質問
ここでは、訪問介護事業所の立ち上げに関してよくある質問をまとめました。
訪問介護事業所の立ち上げに資格は必要?
訪問介護事業所を立ち上げる際には、「サービス提供責任者」の資格が必要です。
この資格を取得するためには、介護職員初任者研修を終了し3年以上の実務経験を積むか、実務者研修以上の資格を保有している必要があります。
なお、前者の場合(介護職員初任者研修を終了し、3年以上の実務経験)は介護報酬が10%減るため注意しましょう。
訪問介護は一人で開業できる?
訪問介護事業所の開業は、一人ではできません。
なぜなら、開業のためには「訪問介護員」「サービス提供責任者」「管理者」をそれぞれ配置する必要があるからです。
訪問介護事業所を自宅で立ち上げることは可能?
都道府県や自治体によって訪問介護事業所の自宅での立ち上げ可能な条件は異なり、「事業所スペースと住宅スペースが分かれていればOK」「事業所の入り口に鍵を設置していればOK」などの条件があります。
もし自宅で開業したい場合は、事前に要件を確認した上で遵守することが欠かせません。
まとめ
今回は、訪問介護事業所の立ち上げで活用できる助成金や事業所を立ち上げる流れ、開業に必要な費用目安などについて解説しました。
訪問介護事業所の立ち上げには、多くの準備や費用が必要になるため、計画的に進めることが大切です。また、記事で紹介した助成金制度を参考に、利用できる制度があれば積極的に活用しましょう。