「外国人を雇用する際に使える助成金や補助金はどんなものがある?」「自社で利用できるのはどれだろう?」といったように、外国人雇用に関する助成金や補助金制度について、疑問を持っている方は少なくありません。
今回は、外国人雇用の際に使える助成金や補助金について、制度を利用するための条件や制度内容を詳しく解説します。
国や行政が提供する資金制度を活用し、事業の可能性を広げたい方はぜひ参考にしてください。
助成金と補助金の違い
まずは、助成金と補助金の違いについて、簡単に確認しておきましょう。
助成金とは
助成金は、一般的に適格な条件を満たしていれば給付されることが期待されます。しかし、補助金は予算や事業の数に制限があり、抽選などの手法によって給付の可否が決定されます。
さらに、助成金の応募期間は比較的長く設定されていることが一般的ですが、補助金の応募期間は通常短く制限されています。
補助金とは
補助金は、政府や地方自治体が特定の方針に基づき、中小企業の成長や地域経済の活性化を促進するために提供する資金です。
これらの補助金は、事前に設定された予算や対象事業の数に制限があり、申請された事業が採択される必要があります。ただし、補助金の支給は申請しただけでは確約されず、審査に基づいて採択が決定されます。
外国人雇用の際に使える助成金・補助金一覧
外国人雇用の際に使える助成金・補助金には、代表的なものとして以下の7酒類が挙げられます。
- 雇用調整助成金
- 人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)
- 人材開発支援助成金(人材育成支援コース)
- トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)
- キャリアアップ助成金(正社員化コース)
- ものづくりマイスター・ITマスターによる実技指導
- 業務改善助成金
それぞれの制度について、概要を確認しましょう。
雇用調整助成金
雇用調整助成金は、事業主が経済的な理由で企業規模を縮小せざるを得ない場合に支援する制度です。この助成金は、従業員の雇用を守るために必要な措置や休業、教育訓練、または出向に伴う一部費用を助成することで、企業の持続可能性を確保するのが目的です。
雇用調整助成金の対象となるのは、以下の全てを満たす事業主です。
- 雇用保険の適用事業主であること
- 売上高又は生産量などの事業活動を示す指標について、その最近3か月間の月平均値が前年同期に比べて10%以上減少していること
- 雇用保険被保険者数及び受け入れている派遣労働者数による雇用量を示す指標について、その最近3か月間の月平均値が前年同期に比べて、中小企業の場合は10%を超えてかつ4人以上、中小企業以外の場合は5%を超えてかつ6人以上増加していないこと
- 実地する雇用調整が一定の基準を満たすものであること。※
- 過去に雇用調整助成金の支給を受けたことがある事業主が新たに対象期間を設定する場合、直前の対象期間の満了の日の翌日から起算して一年を超えていること。ただし、新型コロナウイルス感染症の影響にともなう特例による雇用調整助成金(コロナ特例)の支給を受けたことがある場合は、当該特例に係る対象期間内の最後の判定基礎期間末日(助成金が支給されたものに限る。)の翌日から起算して一年を超えていること
※
- 休業の場合:労使間の協定により、所定労働日の全一日にわたって実施されるものであること
- 教育訓練の場合:休業の場合と同様の基準のほか、教育訓練の内容が、職業に関する知識・技能・技術の習得や向上を目的とするものであること
- 出向の場合:対象期間内に開始され、3か月以上1年以内に出向元事業所に復帰するものであること
助成額の計算は、休業時には「事業主が支払った休業手当負担額」、教育訓練時には「賃金負担額の相当額」に、それぞれ助成率をかけて決定されます。さらに、教育訓練を受けた場合には、1人1日あたり1,200円の追加加算が行われる仕組みです。
助成内容と受給額 | 助成率 |
休業を実施した場合の休業手当または教育訓練を実施した場合の賃金相当額、出向を行った場合の出向元事業主の負担額に対する助成(率)※対象労働者1人あたり8,490円が上限(令和5年8月1日現在) | 中小企業:2/3中小企業以外:1/2 |
教育訓練を実施したときの加算(額) | 1人1日当たり1,200円 |
人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)
人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)」は、外国人労働者の職場定着を支援するための助成金制度です。この助成金を活用することで、事業主は外国人労働者との円滑なコミュニケーションや適切な労働環境の整備を行うことができます。
この制度では、外国人労働者の就労環境に特に焦点を当てた取り組みに対して経費の一部を助成することで、人材確保に関する支援を行います。
人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)の受給条件は、以下の通りです。
- 外国人労働者を雇用している事業主であること
- 認定を受けた就労環境整備計画に基づき、外国人労働者に対する就労環境整備措置(1及び2の措置に加え、3~5のいずれかを選択)を新たに導入し、外国人労働者に対して実施すること
- 就労環境整備計画期間終了後の一定期間経過後における外国人労働者の離職率が10%以下であること
<外国人労働者に対する就労環境整備措置>
- 雇用労務責任者の選任
- 就業規則等の社内規程の多言語化
- 苦情・相談体制の整備
- 一時帰国のための休暇制度の整備
- 社内マニュアル・標識類等の多言語化
なお、受給額は以下のように決められています。
区分 | 上限額 | 助成率 |
賃金要件を満たしていない場合 | 57万円 | 支給対象経費の1/2 |
賃金要件を満たす場合 | 72万円 | 支給対象経費の2/3 |
人材開発支援助成金(人材育成支援コース)
人材開発支援助成金企業は、従業員のスキル向上をサポートするための取り組みを行っています。専門知識やスキルの向上を促進し、企業の競争力を高めることを目指しています。これにより、従業員のキャリア形成が促進され、企業の成長につながると期待されています。
なお、令和5年4月にはこれまでの「特定訓練コース」「一般訓練コース」「特別育成訓練コース」の3つが統合され、「人材育成支援コース」という名称に変更されました。
人材開発支援助成金には8つのコースがありますが、ここで代表的な人材育成支援コースについて取り上げます。
まずは、対象となる中小企業の基準について確認しましょう。AかBのいずれかに該当すれば、中小企業事業主として認められます。
業種 | A:資本金の額 | B:企業全体で常時雇用する労働者の数 |
小売業(飲食店を含む) | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
その他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
また、1人あたりの支給限度額は実訓練時間数に応じて定められています。
企業規模 | 実訓練時間数 | ||
10時間以上100時間未満 | 100時間以上200時間未満 | 200時間以上 | |
中小企業事業主・事業主団体等 | 15万円 | 30万円 | 50万円 |
中小企業以外の事業主 | 10万円 | 20万円 | 30万円 |
トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)
トライアル雇用は、雇用者と企業が3か月間の一定期間で契約を結ぶ制度です。この期間が終了すると、雇用者と企業が合意すれば、その労働者を正規の社員として雇用することができます。厚生労働省によると、トライアル雇用を終えた労働者の約8割が正規雇用に移行しています。
ただし、採用についての義務はなく、企業によっては全ての労働者を正規雇用に移行させない場合もあります。
トライアル雇用の対象者は、45歳以上の中高年齢者、45歳未満の若年者、母子家庭の母、父子家庭の父、季節労働者、中国残留邦人等永住帰国者、障がい者、日雇労働者、ホームレスの方々などです。
また、トライアル雇用助成金を利用できる事業主の条件は以下の通りです。
- 週に30時間以上の所定労働時間を確保できること
- 一定期間内に従業員を解雇したことがないこと
管轄の労働局やハローワークで申請する必要があり、最長3ヶ月にわたって1人あたり月額最大5万円が支給されます。なお、助成金を受け取れるのは一定期間の試行雇用をした後です。
キャリアアップ助成金(正社員化支援)
キャリアアップ助成金の正社員化支援は、非正規雇用労働者の就業環境を改善し、その待遇を向上させることを支援する制度です。この助成金は、正規雇用への移行を支援する「正社員化コース」と「障害者正社員化コース」の2つのタイプがあります。
また、待遇改善を図るために、さらに5つのコースが提供されていますが、今回は「正社員化コース」と「障害者正社員化コース」に焦点を当てて解説します。
この制度の対象となるのは、以下に該当する事業主です。(全コース共通)
業種 | 条件 |
小売業(飲食店を含む) | 資本金5,000万円以下または労働者50人以下 |
サービス業 | 資本金5,000万円以下または労働者100人以下 |
卸売業 | 資本金1億円以下または労働者100人以下 |
その他の業種 | 資本金3億円以下または労働者300人以下 |
正社員化コースの場合の支給条件や金額について以下にまとめました。
条件 | 金額 |
有期雇用から正規雇用(正社員) | 57万円 |
有期雇用から正規雇用(正社員)、なおかつ生産性向上要件を満たす場合 | 72万円 |
無期雇用から正規雇用(正社員) | 28万5,000円 |
無期雇用から正規雇用(正社員)、なおかつ生産性向上要件を満たす場合 | 36万円 |
また、障害者正社員化コースの場合の支給条件や金額は以下の通りです。
対象者 | 条件 | 金額 |
重度身体障害者、重度知的障害者および精神障害者 | 有期雇用から正規雇用(正社員) | 120万円 |
有期雇用から無期雇用(正社員) | 60万円 | |
無期雇用から正規雇用(正社員) | 60万円 | |
重度以外の身体障害者、重度以外の知的障害者、発達障害者、難病患者、高次脳機能障害と診断された者 | 有期雇用から正規雇用(正社員) | 90万円 |
有期雇用から無期雇用(正社員) | 45万円 | |
無期雇用から正規雇用(正社員) | 45万円 |
ものづくりマイスター・ITマスターによる実技指導
「ものづくりマイスター」制度は、ものづくり分野およびIT分野において優れた技能と豊富な経験を有する個人を指します。この制度に認定・登録されることで、彼らは資格を取得し、その優れた技能を証明することができます。中小企業や学校などの若手技術者に対して実践的な技術指導を行った結果、技能の継承や後継者の育成が促進され、産業全体の技術水準が向上することが目的です。
この制度は、ものづくり分野やIT分野における技能の向上と発展を目指しており、産業界全体の競争力向上に貢献しています。
上記にもあるように、ものづくりマイスターやITマスターによる実技指導は、中小企業や学校などが対象です。この指導を受ける際の費用は、コーディネート費用は無料であり、ものづくりマイスターの派遣費用や指導に必要な材料費は、地域技能振興コーナーが規定の範囲内で負担します。
なお、手続きは、最寄りの地域技能振興コーナーに相談して進める必要があります。
業務改善助成金
業務改善助成金は、企業の生産性向上を支援する制度です。具体的には、設備投資やコンサルティング導入、従業員の能力向上のための教育訓練などを助成します。この助成金は、企業が事業場内の最低賃金を一定額以上引き上げた場合にも適用され、関連する費用の一部を補助します。企業にとっては、業務の効率化や生産性向上に寄与する重要な支援制度です。
対象となるのは、以下のAもしくはBを満たす事業者です。
業種 | A:資本金または出資金 | B:常時使用する労働者 |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
その他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
助成額については、最低賃金の引き上げ額や労働者数によって異なります。
引き上げ額 | 引き上げ労働者数 | 助成上限額 | |
30人以上の事業者 | 30人未満の事業者 | ||
30円以上 | 1人 | 30万円 | 60万円 |
2〜3人 | 50万円 | 90万円 | |
4〜6人 | 70万円 | 100万円 | |
7人以上 | 100万円 | 120万円 | |
10人以上 | 120万円 | 130万円 | |
45円以上 | 1人 | 45万円 | 80万円 |
2〜3人 | 70万円 | 110万円 | |
4〜6人 | 100万円 | 140万円 | |
7人以上 | 150万円 | 160万円 | |
10人以上 | 180万円 | 180万円 | |
60円以上 | 1人 | 60万円 | 110万円 |
2〜3人 | 90万円 | 160万円 | |
4〜6人 | 150万円 | 190万円 | |
7人以上 | 230万円 | 230万円 | |
10人以上 | 300万円 | 300万円 | |
90円以上 | 1人 | 90万円 | 170万円 |
2〜3人 | 150万円 | 240万円 | |
4〜6人 | 270万円 | 290万円 | |
7人以上 | 450万円 | 450万円 | |
10人以上 | 600万円 | 600万円 |
引き上げのルールは明確に決められており、以下の3点です。
- 全ての労働者の賃金を新しい事業場内最低賃金以上まで引き上げる
- 賃金を引き上げる労働者数に応じて助成上限額が変動する
- 事業場内最低賃金の者以外でも、申請コースの額以上賃金を引き上げた場合は引上げ人数にカウントされる
外国人雇用で利用可能な3つの支援制度
そのほか、助成金ではありませんが、外国人を雇用することで利用できる3つの支援制度があります。
- 外国人雇用管理アドバイザー制度
- 国際化促進インターンシップ事業
- 製造業外国人従業員受入事業
それぞれの制度について解説します。
外国人雇用管理アドバイザー制度
外国人雇用管理アドバイザー制度は、厚生労働省が運営しています。この制度では、外国人雇用に関する様々な問題に対して、専門的な知識を持つアドバイザーから助言を受けることができます。
具体的には、労働契約や職務配置、職場教育などに関する支援が提供されます。相談申し込みは、各都道府県労働局やハローワークで受け付けられ、利用は無料です。
国際化促進インターンシップ事業
経済産業省が主催する国際化促進インターンシップ事業は、中堅・中小企業が外国人財インターンを受け入れ、彼らの活用を後押しする制度です。このプログラムには、国内留学生向けの対面参加型や、海外在住者向けのオンライン参加型など、多様なインターンシップ方法が用意されています。
中堅・中小企業が外国人労働者との実務経験を通じてネットワークを拡大し、外国人雇用に対するイメージを向上させる機会を提供します。
製造業外国人従業員受入事業
経済産業省が主導する製造業外国人従業員受入事業は、国際競争力の強化と国内製造業の海外移転を防止するために実施されています。この制度の目的は、国内外の生産拠点の役割分担を調整し、特定の専門技術の円滑な移転を促進することです。
具体的には、外国の事業所で働く特定外国従業員が一定期間、日本の事業所で知識やノウハウを学ぶことが条件となっています。
まとめ
今回は、外国人雇用で利用できる助成金・補助金制度について解説しました。
外国人を雇用するにあたって、国内の人材を雇用するのとはまた異なる困難があるかもしれません。そのような時に助成金や補助金などの制度を上手く活用できると、ビジネスチャンスを広げられる可能性があります。
記事で紹介した制度例を参考に、外国人を雇用する際、自社に適した制度の活用を視野に入れてみてはいかがでしょうか。