雇用保険を適用する事業者は、雇用関係助成金を利用できます。とはいえ、雇用関係助成金がどういった制度なのか、具体的にどのような制度があるのか分からないといった方も多いでしょう。
今回は、雇用関係助成金とは何なのかを解説した後、対象企業や雇用関係助成金の制度例などについて解説します。
雇用関係助成金の仕組みを理解した上で活用していけるよう、記事の内容をしっかりと確認しましょう。
雇用関係助成金とは?雇用保険制度との関係性を確認
雇用関係助成金とは、厚生労働省の管轄にある制度で、一定の条件を満たした上で人材雇用を行うと利用できる支援制度です。
雇用安定や就職促進を目的とした雇用保険の加入企業から徴収した雇用保険料をもとに、助成金の対象となる取り組みを実施した企業に対して還元するのが雇用関係助成金の仕組みです。
雇用関係助成金を活用することで職場環境の安定化を図り、失業者の削減や労働者のスキルアップ、雇用機会の拡大、障害者の積極的な雇用などを行いやすくなります。
なお、助成金は返済義務がないため、要件を満たせば利用できる点が魅力です。ただ、社会情勢に応じて制度内容が変更されることがあるほか、申請から受給までには時間がかかるため、一時的な自己資金を用意しておかなければならないことに注意しましょう。
雇用関係助成金の対象となる企業は?5つの条件
雇用関係助成金を利用するためには、各制度の要件を満たすほか、共通して以下の5つの条件を満たしている必要があります。
- 雇用保険適用事業所の事業主であること
- 支給のための審査に協力すること
- 労働関係法令の違反がない
- 審査に必要な書類(就業規則や出勤簿など)を作成・整備・保管している
- 申請期間内に申請を行うこと
これらの条件を満たしていなかった場合、助成金は受給できないため注意してください。
雇用保険金をもとにした雇用関係助成金の一覧
ここでは、雇用保険金をもとにした雇用関係助成金について、以下の制度を紹介します。
- 雇用調整助成金
- 産業雇用安定助成金
- 早期再就職支援等助成金
ただし、今回紹介するのはあくまで一部の助成制度であるため、別の助成制度を活用するといった方法もあります。
雇用調整助成金
雇用雇用調整助成金は、企業が経済的な理由で人員を減らさざるを得ない際に利用できる支援制度です。この助成金は、従業員の雇用を守るために必要な措置や休業、教育訓練、または出向に伴う一部費用を助成し、企業の持続可能性を確保することを目的としています。
この助成金の対象となるのは、以下の全てを満たす事業主です。
- 雇用保険の適用事業主であること
- 売上高又は生産量などの事業活動を示す指標について、その最近3か月間の月平均値が前年同期に比べて10%以上減少していること
- 雇用保険被保険者数及び受け入れている派遣労働者数による雇用量を示す指標について、その最近3か月間の月平均値が前年同期に比べて、中小企業の場合は10%を超えてかつ4人以上、中小企業以外の場合は5%を超えてかつ6人以上増加していないこと
- 実地する雇用調整が一定の基準を満たすものであること。※
- 過去に雇用調整助成金の支給を受けたことがある事業主が新たに対象期間を設定する場合、直前の対象期間の満了の日の翌日から起算して一年を超えていること。ただし、新型コロナウイルス感染症の影響にともなう特例による雇用調整助成金(コロナ特例)の支給を受けたことがある場合は、当該特例に係る対象期間内の最後の判定基礎期間末日(助成金が支給されたものに限る。)の翌日から起算して一年を超えていること
※
- 休業の場合:労使間の協定により、所定労働日の全一日にわたって実施されるものであること
- 教育訓練の場合:休業の場合と同様の基準のほか、教育訓練の内容が、職業に関する知識・技能・技術の習得や向上を目的とするものであること
- 出向の場合:対象期間内に開始され、3か月以上1年以内に出向元事業所に復帰するものであること
助成額の計算は、休業を実施した際の「事業主が支払った休業手当負担額」、教育訓練を実施した際の「賃金負担額の相当額」に、それぞれ企業規模に応じて助成率をかけて行います。
教育訓練を受けた場合は、追加で1人1日あたり1,200円が加算されます。
助成内容と受給額 | 助成率 |
休業を実施した場合の休業手当または教育訓練を実施した場合の賃金相当額、出向を行った場合の出向元事業主の負担額に対する助成(率)※対象労働者1人あたり8,490円が上限(令和5年8月1日現在) | 中小企業:2/3中小企業以外:1/2 |
教育訓練を実施したときの加算(額) | 1人1日当たり1,200円 |
産業雇用安定助成金
産業雇用安定助成金は、新型コロナウイルス感染症の影響下での雇用維持を目指す制度です。事業主が新型コロナウイルス感染症の影響により一時的に事業を縮小し、自社の労働者を一時的に他の事業主に出向させる場合、出向元・出向先の事業主の両方に支給されます。
産業雇用安定助成金には、「スキルアップ支援コース」と「産業連携人材確保等支援コース」の2種類があります。
それぞれのコースについて、詳しい内容を確認しましょう。
スキルアップ支援コース
産業雇用安定助成金の「スキルアップ支援コース」では、労働者のスキルアップを在籍型出向で行い、復帰時の賃金を5%以上上昇させた事業主に対し、負担した賃金の一部が助成されます。
この制度は、以下の要件を満たす方が対象です。
- 労働者のスキルアップを目的として実施すること
- 出向期間終了後は元の事業所に戻って働くことを前提であること
- 労働者の出向復帰後6か月間の各月の賃金を出向前賃金と比較していずれも5%以上上昇させること など
詳しくは、産業雇用安定助成金(スキルアップ支援コース)ガイドブックより確認可能です。
この制度の受給額については、以下の通りです。
中小企業 | 中小企業以外 | |
助成率 | 2/3 | 1/2 |
助成額 | 以下のいずれか低い額に助成率をかけた額(最長1年まで) 出向労働者の出向中の賃金のうち出向元が負担する額出向労働者の出向前の賃金の1/2の額 | |
上限額 | 8,490円/1人1日当たり ※毎年8月に改正(1事業所1年度あたり1,000万円まで) |
産業連携人材確保等支援コース
産業雇用安定助成金の「産業連携人材確保等支援コース」では、以下の要件を満たす方を対象に助成が受けられます。
対象者 | 要件 |
事業主 | 令和5年11月29日以降に中小企業庁の実施する「ものづくり補助金の事業計画書の申請を行い、当該ものづくり補助金の採択および交付決定をうけていること生産量(額)、販売量(額)または売上高等事業活動を示す指標がものづくり補助金の事業計画書の申請日の属する月の前々々月から前月の3か月間の平均値が、前年同期(雇用保険適用事業所設置後であって労働者を雇用している場合に限る。)に比べ10%以上減少していること【労働者】の雇入れにあたって、次のa~cまでの全ての条件を満たすこと雇用保険の一般被保険者または高年齢被保険者として雇い入れること期間の定めのない労働契約を締結する労働者(パートタイム労働者は除く)として雇い入れること「ものづくり補助金」の補助事業実施期間の初日から当該期間の末日までに雇い入れること【労働者】の雇入れ日前6か月から本助成金の支給申請までの期間に、雇用する労働者を解雇等していないこと雇入れに係る事業所で受け入れている派遣労働者数による雇用量を示す指標がものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金の事業計画書の申請日の属する月の前々々月から前月の3か月間の月平均値が前年同期に比べ5%を超えかつ6名以上(中小企業事業主の場合は10%を超えかつ4名以上)減少していないこと |
労働者 | 「ものづくり補助金」の交付決定を受けた事業に関する業務に就く者であって、次の1と2に該当する者次のaかbのいずれかに該当する者専門的な知識や技術が必要となる企画・立案、指導(教育訓練等)の業務に従事する者部下を指揮および監督する業務に従事する者で、係長相当職以上の者1年間に350万円以上の賃金が支払われる者 |
なお、受給額については以下の通りです。
中小企業 | 中小企業以外 | |
助成額 | 250万円/人 ※一事業主あたり5人まで (125万円×2期)※雇入れから6か月を支給対象期の第1期、次の6か月を第2期として、6か月ごとに2回に分けて支給 | 180万円/人 ※一事業主あたり5人まで (90万円×2期)※雇入れから6か月を支給対象期の第1期、次の6か月を第2期として、6か月ごとに2回に分けて支給 |
助成対象期間 | 1年 |
早期再就職支援等助成金
早期再就職支援等助成金とは、労働者の早期就職を促進し、労働者の雇用機会提供に取り組むために中途採用を積極的に行う事業主が利用できる助成制度です。
この制度には、以下の4つのコースがあります。
- 再就職支援コース
- 雇入れ支援コース
- 中途採用拡大コース
- UIJターンコース
それぞれのコースについて、詳しい内容を確認しましょう。
再就職支援コース
早期再就職支援等助成金の再就職支援コースは、以下の条件を満たす方が利用できます。
- 「再就職援助計画」または「求職活動支援書」の対象者であること
- 申請事業主からの雇用保険の一般被保険者または高年齢被保険者としての雇用期間が1年以上であること
- 申請事業主の事業所への復帰が見込めないこと
- 「再就職支援」の場合は、委託契約が成立した時点で再就職先が未定であること、「休暇付与支援」の場合は休暇開始時点で再就職先が未定であること、「職業訓練実施支援」の場合は委託契約が成立した時点で再就職先が未定であること
- 自らを職業紹介事業者による退職勧奨の対象者と認識していないこと
- 自らを申請事業主からの退職強要の対象者と認識していないこと
助成額・助成率については、以下の3パターンによって異なります。
- 再就職の支援を職業紹介事業者に委託する場合
- 求職活動のための休暇を付与する場合
- 離職する労働者の再就職のための訓練を教育訓練施設等に委託して実施する場合
それぞれの制度内容について、以下にまとめましたのでご覧ください。
<再就職の支援を職業紹介事業者に委託する場合>
※【】内は、45歳以上の助成割合
支給対象事業主 | 中小企業事業主 | 中小企業事業主以外 |
通常 | 委託費用×1/2【2/3】 | 委託費用×1/4【1/3】 |
特例 | 委託費用2/3【4/5】 | 委託費用1/3【2/5】 |
訓練加算 | 練実施にかかる委託費用2/3の額 | |
10時間以上100時間未満 | 15万円 | 10万円 |
100時間以上200時間未満 | 30万円 | 20万円 |
200時間以上 | 50万円 | 30万円 |
グループワーク加算 | 3回以上実施で1万円 |
<求職活動のための休暇を付与する場合>
中小企業事業主 | 中小企業事業主以外 | |
通常 | 休暇付与1日あたり8,000円(上限180日分) | 休暇付与1日あたり5,000円(上限180日分) |
再就職加算 | 1人につき10万円 |
<離職する労働者の再就職のための訓練を教育訓練施設等に委託して実施する場合>
※「訓練実施にかかる委託費用×3/4」で、訓練時間数に応じて上限が発生
中小企業事業主 | 中小企業事業主以外 | |
10時間以上100時間未満の訓練加算 | 15万円 | 10万円 |
100時間以上200時間未満の訓練加算 | 30万円 | 20万円 |
200時間以上の訓練加算 | 50万円 | 30万円 |
賃金助成 | 960円/時間 | 480円/時間 |
雇入れ支援コース
早期再就職支援等助成金の雇入れ支援コースは、以下の要件を満たす方が対象です。
- 支給対象者を離職日の翌日から3か月以内に期間の定めのない労働者として雇い入れること
- 支給対象者を一般被保険者又は高年齢被保険者として雇い入れること
このコースの受給額は、「早期雇入れ支援」と「人材育成支援」によって異なります。
<早期雇入れ支援>
- 通常助成:支給対象者1人につき30万円が支給
- 優遇助成:生産指標等により一定の成長性が認められる事業所の事業主が、REVIC(株式会社地域経済活性化支援機構)、中小企業再生支援協議会等による事業再生・再構築・転廃業の支援を受けている事業所等から離職した方を雇い入れた場合、支給対象者1人につき40万円が支給
<人材育成支援>
※早期雇入れ助成の支給対象となる方に対し、雇い入れ日から6か月以内に訓練を開始した場合に以下の額を上乗せして支給
通常助成 | 優遇助成 | ||
OFF-JT | 賃金助成 | 960円(480円)/時間 | 1,060円(580円)/時間 |
10時間以上100時間未満の経費助成 | 15万円(10万円) | 25万円(20万円) | |
100時間以上200時間未満の経費助成 | 30万円(20万円) | 40万円(30万円) | |
200時間以上の経費助成 | 50万円(30万円) | 60万円(40万円) | |
OJT | 実施助成 | 20万円(11万円) |
中途採用拡大コース
早期再就職支援等助成金の中途採用拡大コースは、以下の要件全てを満たす労働者が対象となります。
- 申請事業主に、中途採用により雇い入れられた
- 雇用保険の一般被保険者又は高年齢被保険者として雇い入れられた
- 期間の定めのない労働者(パートタイムを除く)として雇い入れられた
- 雇入れ日の前日から起算してその日以前1年間に、雇用関係、出向、派遣、請負または委任により当該事業主の事業所で就労したことがない
- 雇入れ日の前日から起算してその日以前1年間に、申請事業主と密接な関係にある事業主に雇用されていた経験がない
- 雇入れ時の年齢が45歳以上である
助成額については、以下の通りです。
助成概要 | 助成額 | |
中途採用率の拡大 | 中途採用率を20ポイント以上上昇させた事業主に対する助成 | 50万円 |
45歳以上の中途採用率の拡大 | 以下のすべてを満たす事業主に対する助成 中途採用率を20ポイント以上上昇させたうち45歳以上の労働者で10ポイント(45歳以上中途採用率拡大目標値)以上上昇させた当該45歳以上の労働者全員の賃金を前職と比べて5%以上上昇させた | 100万円 |
UIJターンコース
早期再就職支援等助成金のUIJターンコースは、以下の全てに該当する労働者が対象です。
- 東京圏からの移住者の方
- デジタル田園都市国家構想交付金(地方創生推進タイプ(移住・起業・就業型))を活用して地方公共団体が開設・運営する
- マッチングサイトに掲載された求人に応募し、計画期間中に雇い入れられた方
- 雇入れ当初より雇用保険の一般被保険者または高年齢被保険者として雇い入れられた方
- 継続して雇用することが確実であると認められる者であること
助成対象となる経費には、以下が挙げられます。
- 募集・採用パンフレットやその印刷費用
- 自社ウェブサイトやPR動画の作成・更新費用
- 就職説明会や面接会、出張面接の実施に伴う費用
- 採用担当者の宿泊費用(1泊あたり8,700円が上限)
- 採用担当者の交通費
- 外部専門家(例:社会保険労務士、中小企業診断士、民間の職業紹介会社など)によるコンサルティング料
なお、当コースの助成率・助成額については以下の通りです。
助成率 | 助成上限額 | |
中小企業 | 1/2 | 100万円 |
中小企業以外 | 1/2 |
まとめ
今回は、雇用保険と雇用関連助成金の関係性を解説した上で、雇用関連助成金の一例を紹介しました。雇用保険をもとにした助成金制度にはさまざまな種類があるため、制度内容や助成を受ける目的に合わせて、適切な制度を利用することが大切です。
記事の内容を参考に、働きやすい環境を提供する上で役立つ雇用関連の助成金制度を活用しましょう。