就労継続支援B型事業所として事業を始めたいと思っているものの、金銭面への不安でなかなか計画を進められていない方も多いのではないでしょうか。そこでおすすめなのが、国や自治体の助成金や補助金制度を活用することです。
とはいえ、「どんな制度を利用できるのか分からない」「そもそもいくらもらえるの?」と疑問を持つ方は少なくありません。
今回は、就労継続支援B型事業所の概要やビジネスモデルを簡単に確認したのち、就労継続支援B型事業所が申請可能な助成金・補助金について詳しく解説します。就労継続支援B型事業所が利用できる助成金について知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
就労継続支援B型事業所とは?
就労継続支援B型事業所は、障害を持つ方が自立した社会生活を送るために、職業訓練や就労支援を提供する施設です。利用者は自分の能力や興味に合った作業を通じて技術やスキルを身につけ、社会参加や就労への自信を高めます。
施設内での作業だけでなく、地域の企業との協力による実践的な仕事体験も行われ、利用者の社会復帰を支援しています。
就労継続支援B型の対象者
就労継続支援B型事業所は、精神障害、発達障害、知的障害、身体障害、難病などの障害を持つ方々が利用できます。障害者手帳がなくても医師の診断があれば利用可能であり、就労が難しい方や障害基礎年金1級の受給者も対象です。
年齢制限はなく、若い方から中高年の方まで利用でき、利用期間に制限はないため安心して利用できます。
就労継続支援B型の仕事内容
就労継続支援B型事業所の仕事内容は施設によって異なりますが、一般的には以下のような業務があります。
- データ入力や書類整理
- 仕分けなどの事務作業
- 工場内でのパッキングやピッキング
- 部品加工などの製造業務
- 手工芸品やアート作品の制作
- カフェやレストランでの接客や調理
- 農作業
- クリーニング・清掃作業などのサービス業務
また、新型コロナウイルスの影響で在宅勤務のケースも増えており、柔軟な勤務形態が取られています。具体的な勤務時間や勤務日数は個々の状況によって異なり、雇用契約を結ばないため、短時間勤務や休暇も柔軟に対応しやすく、ニーズに合わせた働き方を実現可能です。
就労継続支援B型事業は助成金目当てって本当?
結論から言うと、就労継続支援B型事業は助成金目当てではありません。この事業の主な目的は、障害を持つ人々が社会参加を促進し、自立した生活を送るための支援を提供することです。
助成金は、この目的を達成するための手段の一つに過ぎません。就労継続支援B型事業のビジネスモデルは、利用者の能力やニーズに合わせた適切な支援を提供し、その結果として報酬を得ることにあります。
利用者の成長や自立への支援が中心となり、その過程で助成金が活用されますが、これは事業の持続性や成果を向上させるための手段に過ぎません。
就労継続支援B型事業所のビジネスモデル
就労継続支援B型事業所のビジネスモデルについて、主な収入源は以下の2種類があります。
- 障害福祉サービスとしての収入
- 利用者の活動による売上
それぞれの項目について詳しく確認しましょう。
障害福祉サービスとしての収入
就労継続支援B型事業所では、収入の大半が障害福祉サービスの報酬から得られます。報酬の9割は市町村からの訓練等給付費として支払われ、残りの1割は利用者に請求されます。自己負担のない利用者については、全額を市町村から受け取る仕組みです。
また、障害福祉サービスの報酬は基本報酬と加算で構成され、平均工賃月額に応じた報酬体系と利用者の就労や生産活動への参加等による一律評価の選択肢が提供されています。
就労継続支援B型の基本報酬は、以下のように定められています。
平均工賃月額 | 基本報酬 |
4.5万円以上 | 702単位/日 |
3.5万円以上4.5万円未満 | 672単位/日 |
3万円以上3.5万円未満 | 657単位/日 |
2.5万円以上3万円未満 | 643単位/日 |
2万円以上2.5万円未満 | 631単位/日 |
1.5万円以上2万円未満 | 611単位/日 |
1万円以上1.5万円未満 | 590単位/日 |
1万円未満 | 566単位/日 |
利用者の活動による売上
就労継続支援B型事業所では、利用者の生産活動による売上が発生します。ただし、この収入から生産活動にかかった経費を差し引いた金額を、利用者に工賃として支払わなければなりません。
そのため、原則として余剰金は発生しませんが、事業所は将来の賃金・工賃支給や円滑な事業継続のために積立金の計上が認められています。
就労継続支援B型事業所が申請可能な助成金・補助金一覧
就労継続支援B型事業所が申請可能な助成金・補助金として、ここでは以下のものを紹介します。
- キャリアアップ助成金
- 特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)
- 人材開発支援助成金
- IT導入補助金
- 社会福祉施設等施設整備費補助金
それぞれの制度について、利用条件や限度額などを確認しましょう。
キャリアアップ助成金
トライアル雇用は、労働者と企業の間で通常3か月間の契約を結ぶ制度です。この契約期間の終了後、双方が同意すれば、その労働者は正規の社員として雇用される可能性があります。統計によると、トライアル雇用を終えた労働者の約80%が正規雇用に移行していますが、全ての企業がこの移行を行うわけではありません。
トライアル雇用の対象者は、幅広い人々です。例えば、中高年の労働者や若年の求職者、母子家庭や父子家庭の両親、季節労働者、海外から帰国した永住者、障がい者、日雇い労働者、そしてホームレスの方々が挙げられます。
また、トライアル雇用助成金を受け取るには、一定の条件があります。
- 週に30時間以上の労働時間を提供できること
- 一定期間内に解雇を行っていないこと
この助成金は、労働局やハローワークなどの管轄機関から申請し、最大で1人あたり月額5万円の支給が可能です。ただし、助成金を受け取るには、一定期間の試用期間を終える必要があります。
特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)
特定求職者雇用開発助成金は、条件に該当する求職者を雇用する際に受け取れる助成金です。特定求職者雇用開発助成金には3種類のコースがあり、就労継続支援B型事業所では「特定就職困難者コース」を利用できるのが一般的です。
特定就職困難者コースは、就職が難しい方の雇用を支援するための助成金制度です。障がい者や高齢者、母子・父子家庭などがその対象です。この助成金を受けるには、雇用された労働者を65歳まで継続して雇用し、かつ、雇用期間が2年以上である必要があります。
支給額は、障がいの程度や企業の規模によって変わります。例えば、重度の障がい者や45歳以上の障がい者、精神障がい者には年額240万円(中小企業では100万円)が最大3年間(中小企業では1年6ヶ月)支給されます。
一方、短時間労働者に対しては、年額80万円(中小企業では30万円)が最大2年間(中小企業では1年間)支給されます。
人材開発支援助成金(人材育成支援コース)
人材開発支援助成金は、中小企業向けの支援プログラムです。令和5年4月には、これまでの「特定訓練コース」「一般訓練コース」「特別育成訓練コース」の3つが統合され、「人材育成支援コース」という名称に変更されました。
この助成金には8つのコースがありますが、ここでは代表的な人材育成支援コースに焦点を当てます。
対象となる中小企業の基準については、AかBのいずれかに該当すれば認められます。
業種 | A:資本金の額 | B:企業全体で常時雇用する労働者の数 |
小売業(飲食店を含む) | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
その他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
また、1人あたりの支給限度額については、実訓練時間数に応じて以下のように決められています。
企業規模 | 実訓練時間数 | ||
10時間以上100時間未満 | 100時間以上200時間未満 | 200時間以上 | |
中小企業事業主・事業主団体等 | 15万円 | 30万円 | 50万円 |
中小企業以外の事業主 | 10万円 | 20万円 | 30万円 |
IT導入補助金
IT導入補助金は、中小企業や小規模事業者がビジネスの成長や業務の合理化を図るための支援制度です。
この補助金を受け取るためには、いくつか条件があります。まず、導入可能なツールは、IT導入補助金事務局に登録されているものに限ります。さらに、補助金を申請する際には、「IT導入支援事業者」との連携が必要です。
IT導入補助金の対象となる事業者については、以下をご覧ください。
対象事業者 | 業種 | 条件 |
小規模事業者 | 商業・サービス業 | 従業員が5人以下 |
サービス業(宿泊業・娯楽業) | 従業員が20人以下 | |
製造業・その他 | 従業員20人以下 | |
中小企業 | 製造業 | 資本3億円以下もしくは従業員300人以下 |
卸売業 | 資本1億円以下もしくは従業員100人以下 | |
サービス業 | 資本5,000万円以下もしくは従業員100人以下 | |
小売業 | 資本5,000万円以下もしくは従業員50人以下 | |
ソフトウェア業 | 資本3億円以下もしくは従業員300人以下 | |
旅館業 | 資本5,000万円以下もしくは従業員200人以下 | |
その他の業種 | 資本3億円以下もしくは従業員300人 |
なお、補助額は5万円から450万円、補助率は1/2から3/4です。
申請枠 | 補助額 | 補助率 |
通常枠(A類型) | 5万〜150万円未満 | 1/2以内 |
回復型賃上げ・雇用拡大枠 | 150万円~450万円以下 | 1/2以内 |
デジタル枠 | 5万円~100万円 | 1/2以内 |
グローバル市場開拓枠 | ~50万円以下 | 3/4以内 |
グリーン枠 | 50万円超~350万円 | 2/3以内 |
社会福祉施設等施設整備費補助金
社会福祉施設等施設整備補助金は、法人に対して支給される補助金制度で、社会福祉施設の新設や大規模修繕などに利用されます。
この補助金の対象となるのは、社会福祉法人などの公益性の高い法人だけでなく、株式会社や合同会社も含まれます。
補助金の額は、国が定める事業(施設)の種類ごとの補助基準単価の合計額と、対象経費(総事業費から対象外経費を控除した額)の4分の3のいずれか低い方が支給されます。
就労継続支援B型事業所が助成金を申請する際の注意点
就労継続支援B型事業所が助成金を申請するときは、以下のポイントに注意しましょう。
- 申請しなければそもそも受給できない
- 申請期限を過ぎないようにする
- 必要な書類をきちんと揃えておく
それぞれの項目について、解説します。
申請しなければそもそも受給できない
助成金の受給には、申請手続きが欠かせません。助成金を受けるためには、事業所が自らの資格を確認し、申請手続きを適切に行う必要があります。
助成金の制度や要件は常に変動するため、最新情報を把握し、適切なタイミングで申請することが大切です。
また、申請から受給までには時間がかかる場合もあるため、余裕を持って慌てずに対処しましょう。申請を怠ると助成金の受給が困難になるため、事業所は積極的に申請手続きに取り組むことが不可欠です。
申請期限を過ぎないようにする
助成金を申請する際には、申請期限にも十分注意しなければなりません。助成金には申請期間が定められており、その期限内に手続きを行わなければ受給が認められません。
例えば、受給資格者創業支援助成金などでは、創業前に事前届を提出する必要があります。期限を逸すると、貴重な受給チャンスを失うことになりかねません。
したがって、申請手続きを行う際には、期限を把握し、早めに対応することが肝要です。タイミングを見誤らないよう、助成金の有効な利用を目指しましょう。
必要な書類をきちんと揃えておく
最後に、助成金を申請する際には必要な書類を適切に準備することが大切です。
必要な書類の例として、一般的には出勤簿や労働者名簿、賃金台帳、就業規則などの法定帳簿類が含まれます。これらの書類を整える作業は手間がかかりますが、不備があると申請が受理されないため、事前にしっかりと準備を整えておくことが大切です。
また、書類の提出期限を見逃さず、スムーズに手続きを進めることも意識しましょう。
就労継続支援B型事業所が収入を伸ばすためのポイント
就労継続支援B型事業所が収入を伸ばすためのポイントとして、以下の3点が挙げられます。
- 稼働率を高める
- 収益性を高める
- 工賃アップを図る
それぞれの項目について解説します。
稼働率を高める
就労継続支援B型事業所が収入を増やすためには、稼働率の向上が不可欠です。実際に、収益性の高い事業所は稼働率が高い傾向があります。そのため、積極的な集客活動が不可欠です。地域や行政との良好な関係構築を通じて、地域ニーズに即したサービス提供を心掛けることが重要です。また、効果的な広報活動やSNSを駆使した情報発信も必要です。さらに、利用者やその家族への丁寧な説明やフォローアップが収入拡大につながります。総合的なアプローチで、事業所の存在価値を地域社会に示し、積極的な収入増加を図ることが重要です。
収益性を高める
就労継続支援B型事業所が収益性を高めるためには、収益性の高い作業に注力することが肝要です。例えば、オリジナル製品の製作や販売など、利益率の高い業務に焦点を当てることが鍵となります。
また、利用者の得意分野や興味に合わせた仕事の提供も重要です。さらに、外部の関連企業との連携を通じて、施設外での就労機会を拡大することも効果的でしょう。
経営者の本業との連携や、事業所の独自性を生かしたサービス提供も戦略の一環として検討してみましょう。これらの施策を通じて、就労継続支援B型事業所は収益性を向上させ、持続可能な経営を実現しやすくなります。
工賃アップを図る
報酬体系の改善は、就労継続支援B型事業所における収益増加の鍵となります。現在の報酬体系では、高い工賃を実現する事業所が評価され、利用者に最低でも月1万円以上の工賃が保証されることが望ましいです。
この取り組みは、利用者の自立を促進し、事業所の収益性を向上させるだけでなく、利用者のモチベーションアップにもつながります。
工賃アップを図るためには、適切な報酬体系の設計や、利用者の能力や成果に応じた公正な評価が必要です。工賃の増加は利用者の生活の質を向上させ、事業所の業績拡大に貢献するでしょう。
まとめ
今回は、就労継続支援B型事業所はいくら助成金をもらえるのか、主な助成金制度の内容を解説しました。就労継続支援B型事業所が利用できる助成金制度にはさまざまな種類があるため、事業所にとって適切な制度を利用し、事業の持続化や雇用者のスキル向上に勤めましょう。
補助金申請の際の注意点や就労継続支援B型事業所が赤字にならないためのコツも紹介しましたので、就労継続支援B型事業所として事業を始めようか検討している方は、記事でお話しした内容をぜひ参考にしてみてください。