60歳以上の高齢者を雇用する場合、活用できる助成金があるのをご存知でしょうか。助成金を活用することで返済不要の支援金を受け取れるため、赤字リスクが少なくなるメリットもあります。
今回は、高齢者を雇用するメリットや注意点、60歳以上の高齢者雇用で利用できる助成金について、6種類の制度を紹介します。実際に助成金を申請する際のコツについても解説しますので、高齢者雇用を検討している方はぜひ最後までご覧ください。
60歳以上の高齢者を雇用するメリット
60歳以上の高齢者を雇用する主なメリットとして、以下の3点が挙げられます。
- 高齢者のスキルを活用できる
- 労働人材を確保できる
- 従業員のモチベーションアップにつながる
それぞれの項目について解説します。
高齢者のスキルを活用できる
60歳以上の高齢者を雇用するメリットの1つ目に、高齢者のスキルを活用できることが挙げられます。
高齢者の経験やノウハウは、企業にとって有益な資産です。彼らは数十年にわたるキャリアを通じて培ったスキルや洞察力を持ち、それをビジネスに活かすことができます。
高齢者が持つ豊富な経験を生かすことで、企業は業務の効率化や品質向上に大きく貢献できることが期待されます。また、高齢者の人間関係の構築能力や問題解決能力は、チームの調和を促進し、会社の競争力を高める効果もあるでしょう。
高齢者のスキルや経験を適切に活用することは、企業にとって競争力を高め、持続可能な成長を促す上で不可欠です。
労働人材を確保できる
60歳以上の高齢者を雇用するメリットの2つ目は、労働人材を確保できることです。
高齢者の採用は、企業にとって貴重な労働力の確保手段となります。日本の労働力人口の減少が進む中、高齢者の雇用は人手不足を緩和し、企業の持続的な発展に寄与するでしょう。
働く意欲の高い高齢者は、これまでの豊富な経験と知識を持ち、適切な環境下で活躍することが期待されます。年齢に関係なく働く機会を提供することは、企業側にとっても大きなメリットがあります。
従業員のモチベーションアップにつながる
60歳以上の高齢者を雇用するメリットの3つ目は、従業員のモチベーションアップにつながることです。
高齢者の雇用は、高齢者世代の働く姿勢や意欲は若い世代にとって刺激となり、職場の労働意欲の活性化につながります。
職場全体の雰囲気が活気づくことで企業の生産性も向上し、組織全体のモチベーションが高まることが期待されます。
60歳以上の高齢者を雇用する際の注意点
さまざまなメリットがある一方、60歳以上の高齢者を雇用する際は、以下の点に気をつける必要があります。
- 知識やスキルが通用しない場合がある
- 人間関係での問題が懸念される
- 病気や怪我のリスクを理解する必要がある
それぞれのポイントについて確認しましょう。
知識やスキルが通用しない場合がある
高齢者の採用に際しては、彼らの持つ知識や技術が現場で十分に活用できるかどうかを確認する必要があります。高齢者の持つスキルが最新の業務に対応していない場合もあるため、事前にスキルの評価を行い、必要に応じてトレーニングや教育プログラムを提供することが不可欠です。
また、新しい技術やプロセスの習得を支援するための十分なサポート体制も整えることが欠かせません。これにより高齢者がスムーズに職場に適応しやすく、企業として成長していけることが期待できます。
人間関係での問題が懸念される
職場に高齢者を採用する際、異なる世代間の人間関係に着目する必要があります。特に、年齢層の違いから生じるコミュニケーション上の課題や意見の食い違いが懸念されます。また、若手従業員とのコミュニケーションの取りにくさや高齢者同士の適応性の差などもあるでしょう。
これらの問題が解決されないと、職場の雰囲気が悪化し、生産性やモチベーションに悪影響を及ぼすことがあります。雇用主には、異なる世代間のコミュニケーションを促進し、意見調整を図る取り組みが求められます。
病気や怪我のリスクを理解する必要がある
高齢者を雇用する際には、病気や怪我のリスクを正しく理解し、適切に対処することが不可欠です。高齢者は一般的に健康リスクが高まる傾向にあるため、雇用者はその点を十分に考慮する必要があります。
雇用する高齢者の健康状態を把握し、仕事の負担や内容を適切に調整することで、彼らが無理なく働ける環境を整えることが大切です。また、定期的な健康チェックや健康管理の相談窓口の設置など、適切なサポート体制を整えることも効果的です。
これにより、高齢者が安心して働ける環境を提供し、企業の労働生産性向上にも寄与するでしょう。
60歳以上の高齢者雇用で利用できる助成金一覧
ここでは、60歳以上の高齢者雇用で利用できる助成金について、以下5種類のコースを紹介します。
- 特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)
- 65歳超雇用推進助成金(65歳超継続雇用促進コース)
- 65歳超雇用推進助成金(高年齢者無期雇用転換コース)
- 65歳超雇用推進助成金(高年齢者評価制度等雇用管理改善コース)
- 高年齢労働者処遇改善促進助成金
それぞれの制度について条件や内容を確認し、利用を検討してみてください。
特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)
特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)は、65歳以上の離職者をハローワークなどを通じて紹介し、2年以上継続して雇用することが確実な労働者として採用する事業主に支給されます。
この助成金の支給条件として、以下のすべてを満たしていることが求められます。
- ハローワークまたは民間の職業紹介事業者等の紹介により雇い入れること
- 雇用保険の高年齢被保険者として雇い入れ、2年以上雇用することが確実であると認められること
「民間の職業紹介事業者等」には、具体的に以下の期間が含まれています。
- 公共職業安定所(ハローワーク)
- 地方運輸局(船員として雇い入れる場合)
- 適正な運用を期すことのできる有料・無料職業紹介事業者等
なお、特定求職者雇用開発助成金の支給額は以下の通りです。
対象労働者 | 支給額 | 助成対象期間 | 支給対象期ごとの支給額 | |
短時間労働者以外の者 | 高年齢者(60歳以上)、母子家庭の母等 | 60万円(50万円) | 1年(1年) | 30万円×2期(25万円×2期) |
重度障害者等を除く身体・知的障害者 | 120万円(50万円) | 2年(1年) | 30万円×4期(25万円×2期) | |
重度障害者等 | 240万円(100万円) | 3年(1年6か月) | 40万円×6期(33万円×3期) ※第3期は34万円 | |
短時間労働者 | 高年齢者(60歳以上)、母子家庭の母等 | 40万円(30万円) | 1年(1年) | 20万円×2期(15万円×2期) |
重度障害者等を含む身体・知的・精神障害者 | 80万円(30万円) | 2年(1年) | 20万円×4期(15万円×2期) |
(括弧内は、中小企業事業主以外に対する支給額および助成対象期間)
65歳超雇用推進助成金(65歳超継続雇用促進コース)
65歳超雇用推進助成金(65歳超継続雇用促進コース)は、65歳以上の定年を引き上げるなどの取り組みを実施した事業主に支給されます。目的は、高齢者の雇用機会を増やし、安定した雇用環境を提供することです。
この制度の支給要件は、以下の通りです。
- 65歳以上への定年の引き上げ
- 定年の定めの廃止
- 旧定年年齢及び継続雇用年齢を上回る66歳以上の継続雇用制度の導入
- 他社による継続雇用の導入
なお、支給額については、支給要件と年齢によって異なります。定年引上げ又は定年の定めの廃止においては、以下の支給額です。
対象被保険者数 | 65歳への定年引上げ | 66~69歳への定年引上げ(5歳未満) | 66~69歳への定年引上げ(5歳以上) | 70歳以上への定年引上げ(注) | 定年の定めの廃止(注) |
1~3人 | 15万円 | 20万円 | 30万円 | 30万円 | 40万円 |
4~6人 | 20万円 | 25万円 | 50万円 | 50万円 | 80万円 |
7~9人 | 25万円 | 30万円 | 85万円 | 85万円 | 120万円 |
10人以上 | 30万円 | 35万円 | 105万円 | 105万円 | 160万円 |
また、希望者全員を66歳以上の年齢まで雇用する継続雇用制度の導入では、以下の支給額となります。
対象被保険者数 | 66~69歳への継続雇用の引上げ | 70歳以上への継続雇用の引上げ |
1~3人 | 15万円 | 30万円 |
4~6人 | 25万円 | 50万円 |
7~9人 | 40万円 | 80万円 |
10人以上 | 60万円 | 100万円 |
そして最後に、他社による継続雇用制度の場合、年齢によって以下の支給上限額となります。
- 66~69歳への継続雇用の引上げ:10万円
- 70歳以上への継続雇用の引上げ:15万円
65歳超雇用推進助成金(高年齢者無期雇用転換コース)
65歳超雇用推進助成金(高年齢者無期雇用転換コース)は、50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換した事業主に対して、国の予算の範囲内で支給される助成金のことです。
この助成金は、以下を実施した場合に受給できます。
- 無期雇用転換計画の認定:有期契約労働者を無期雇用労働者に転換する計画を作成し、当機構理事長に提出してその認定を受けること。
- 無期雇用転換計画の実施:無期雇用転換計画に基づき、当該無期雇用転換計画期間内に、雇用する50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換すること
支給額については、対象労働者1人あたり48万円(中小企業事業主以外は38万円)が支給されます。なお、年度あたりの支給は1適用事業所あたり10人までが上限です。
65歳超雇用推進助成金(高年齢者評価制度等雇用管理改善コース)
65歳超雇用推進助成金(高年齢者評価制度等雇用管理改善コース)は、高齢者の雇用管理に関する施策を実施した企業に支給される助成金です。労働協約や就業規則に措置を定め、要件を満たした事業主が助成の対象となります。
具体的な要件については、以下の通りです。
- 雇用管理整備計画の認定:高年齢者の雇用管理制度を整備するため、「高年齢者雇用管理整備措置」を内容とする「雇用管理整備計画」を作成し、当機構理事長に提出してその認定を受けること
- 高年齢者雇用管理整備措置の実施:雇用管理整備計画に基づき、当該雇用管理整備計画の実施期間内に「雇用管理整備措置」を実施し、措置の実施状況を明らかにする書類を整備していること。また、雇用管理整備計画の終了日の翌日から6か月間の運用状況を明らかにする書類を整備し、支給対象被保険者が1人以上いること。
出典:65歳超雇用推進助成金(高年齢者評価制度等雇用管理改善コース)
支給額については、次の割合で計算されます。
- 支給対象経費の60%(生産性要件を満たした事業主は75%)
- 中小企業以外は45%(生産性要件を満たした事業主は60%)
支給対象経費とは、雇用管理の導入や見直しに関する専門家への相談費用や、新たに導入された機器やシステムにかかる費用を指します。この経費は実費で支給され、初回のみ上限額が50万円となります。
高年齢労働者処遇改善促進助成金
高年齢労働者処遇改善促進助成金は、60歳から64歳までの労働者の処遇改善を支援するために、令和3年4月1日に導入されました。この助成金は、雇用形態にかかわらず公正な待遇を提供することを目指しており、事業主が活用することで高齢者の働きやすい環境を整えられるでしょう。
高年齢労働者処遇改善促進助成金を受け取るためには、以下3つの条件をすべて満たしている必要があります。
- 賃金条件のAとBを比較し、75%以上であることが確認できること
- 賃金規定等の改定後の高年齢雇用継続基本給付金の総額が、賃金規定等の改定前よりも減少している事業主であること
- 支給申請日において増額改定後の賃金規定等を継続して運用している事業主であること
賃金条件とは、以下の項目です。
- A:すべての算定対象労働者の60歳到達時点での1時間当たりの毎月決まって支払われる賃金
- B:賃金規定等を増額改定した後のすべての算定対象労働者の、1時間当たりの毎月決まって支払われる賃金
また、高年齢労働者処遇改善促進助成金の支給は、令和5年度以降から下記のAからBを引いた額に2/3(中小企業以外は1/2)を掛けた額が算出されます。
- A:賃金規定等改定の措置に基づき、増額された賃金が支払われた日の属する6ヶ月間に、算定対象労働者が受給した増額改定前の賃金の額で算定した高年齢雇用継続基本給付金の総額
- B:賃金規定等を増額改定後、各支給対象期において、当該算定対象労働者が受給した増額改定後の賃金の額で算定した高年齢雇用継続給付金の総額
60歳以上の高齢者雇用で助成金を申請する際のポイント
60歳以上の高齢者雇用の際に助成金を申請する場合、以下のポイントに気をつけましょう。
- 早めに申告準備を進める
- 必要に応じてサポートを受ける
それぞれの項目について、簡単に要点をお話しします。
早めに申告準備を進める
助成金を申請する際、早めに申告準備を進めることが欠かせません。助成金の申請にはさまざまな書類が必要であり、その準備には時間がかかることが多いでしょう。
また、申請に際しては受給条件を正確に把握し、必要な手続きを迅速に進めることが重要です。早めに必要な準備を済ませておくことで、トラブルを未然に防ぎやすくなります。
余裕を持って準備が終わっていれば、もし要件に不備がある場合は修正や補足書類の提出が必要になるかもしれませんが、落ち着いて対応することができます。助成金の申請には時間がかかることが多いため、早めの行動が成功のコツです。
必要に応じてサポートを受ける
助成金の申請方法に関して疑問がある場合は、専門家や専門サービスに助けを求めるのがおすすめです。助成金はただ申請するだけで得られるものではなく、審査に通る必要があります。
必要な資料や準備が不足していると、審査に通らない可能性もあるため注意しましょう。助成金をしっかりと獲得するためには、専門家や専門サービスのサポートを活用することが賢明です。これらのサポートを受けることで、経験豊かな専門家やサービスが、申請手続きの進行や必要な書類の提出などをフォローしてもらえるでしょう。
60歳以上の高齢者雇用で利用できる助成金まとめ
今回の記事では、60歳以上の高齢者を雇用する場合に利用できる助成金制度について解説しました。助成金を利用して高齢者を積極的に雇用することで、高齢者のスキル活用や労働人材の確保、従業員のモチベーションアップなどの利点があります。
ただし、これらの利点が裏目に出ることもあり、知識やスキルの通用度、人間関係での問題、病気や怪我のリスクなどについて対策することが欠かせません。
記事で実際に利用可能な助成金制度をいくつか挙げていますので、60歳以上の高齢者を雇用するか悩んでいる方は、ぜひ参考にしてみてください。