「テレワークを導入しようと思っているので、活用できる助成金や補助金の制度があれば知りたい」「そもそも助成金の申請方法や受け取りの流れがわからない」と悩む中小企業の方は多いのではないでしょうか。
今回は、テレワークの導入で利用できる助成金・補助金の概要や条件について詳しく解説します。
テレワークの導入を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
テレワーク導入に必要なコストを確認しよう
テレワークの導入には、主に遠隔地での作業に必要な機器やサービスの導入に伴うコストがかかります。具体的には、以下のような費用が挙げられます。
- パソコンやスマートフォンの提供
- オンライン会議システムの導入
- クラウドベースの勤怠管理システムの導入
- 通信環境の整備
これらの機器やサービスの導入に加えて、従業員のスキルに応じたトレーニングが必要な場合もあります。既存の体制によっては、数十万円から数百万円の費用がかかることもあるでしょう。
助成金や補助金の活用は、これらの費用負担を軽減するのに役立ちます。過去に実施されていた助成金や補助金の一部を以下に紹介しますが、すべてが適用されるわけではないため、詳細は実施元に確認する必要があります。
助成金と補助金の違い
まずは、助成金と補助金の違いを確認しておきましょう。
助成金とは
助成金は、基本的には要件を満たせば給付される傾向があります。一方、補助金は予算や件数に限りがあり、抽選などで給付の可否が決まります。
また、助成金の応募期間は通常比較的長く設定されますが、補助金の応募期間は一般的に短いです。
補助金とは
補助金とは、政府が特定の政策目標を達成するために、中小企業の成長や活性化を促進するために提供される資金のことです。
これらの補助金は、事前に予算や対象事業の数に上限が設定されており、申請された事業が選定される必要があります。選定されなければ補助金は受け取れないため、申請しても必ずしも補助金が支給されるとは限らない点に注意が必要です。
テレワークの導入で利用できる助成金・補助金制度一覧
今回は、テレワークの導入で利用できる助成金・補助金制度について、以下を紹介します。
- 人材確保等支援助成金(テレワークコース)
- IT導入補助金
- 人材開発支援助成金
- サイバーセキュリティ対策促進助成金(東京都)
- 躍進的な事業推進のための設備投資支援事業(東京都)
それぞれの制度について、概要を確認しましょう。
人材確保等支援助成金(テレワークコース)
人材確保等支援助成金(テレワークコース)は、中小企業事業主を対象とした制度であり、良質なテレワークの導入と実施を通じて、労働者の人材確保や雇用管理の改善を支援することが目的です。
対象となる経費の支給範囲は以下の通りです。
- 就業規則・労働協約・労使協定の作成・変更
- 外部専門家によるコンサルティング
- テレワーク用通信機器等の導入・運用
- 労務管理担当者に対する研修
- 労働者に対する研修
この制度は、「機器等導入助成」と「目標達成助成」の2つの要素から構成され、前者はテレワークに必要な機器や設備の導入を支援し、後者はテレワーク導入の効果が具体的に表れた際に助成を行います。
助成額については、要素別にそれぞれ以下の通りに支給されます。
助成 | 助成額 |
機器等導入助成 | 1企業あたり、支給対象となる経費の30%※ただし「1企業あたり100万円」「テレワーク実施対象労働者1人あたり20万円」のいずれか低い方の金額が上限 |
目標達成助成 | 1企業あたり、支給対象となる経費の20%(賃金要件を満たす場合35%) ※ただし「1企業あたり100万円」「テレワーク実施対象労働者1人あたり20万円」のいずれか低い方の金額が上限 |
IT導入補助金
IT導入補助金は、中小企業や小規模事業者がビジネスの発展や業務の最適化を目指して、ITツールを導入するための支援制度です。
この補助金を受けるには、いくつかの条件があります。まず第一に、導入可能なツールはIT導入補助金事務局に登録されているものに限定されます。さらに、補助金を申請する際には、「IT導入支援事業者」との連携が必要です。
IT導入補助金の対象となる事業者は、以下に該当する小規模事業者と中小企業が含まれます。
対象事業者 | 業種 | 条件 |
小規模事業者 | 商業・サービス業 | 従業員が5人以下 |
サービス業(宿泊業・娯楽業) | 従業員が20人以下 | |
製造業・その他 | 従業員20人以下 | |
中小企業 | 製造業 | 資本3億円以下もしくは従業員300人以下 |
卸売業 | 資本1億円以下もしくは従業員100人以下 | |
サービス業 | 資本5,000万円以下もしくは従業員100人以下 | |
小売業 | 資本5,000万円以下もしくは従業員50人以下 | |
ソフトウェア業 | 資本3億円以下もしくは従業員300人以下 | |
旅館業 | 資本5,000万円以下もしくは従業員200人以下 | |
その他の業種 | 資本3億円以下もしくは従業員300人 |
なお、補助額は5万円から450万円、補助率は1/2から3/4となります。
申請枠 | 補助額 | 補助率 |
通常枠(A類型) | 5万〜150万円未満 | 1/2以内 |
回復型賃上げ・雇用拡大枠 | 150万円~450万円以下 | 1/2以内 |
デジタル枠 | 5万円~100万円 | 1/2以内 |
グローバル市場開拓枠 | ~50万円以下 | 3/4以内 |
グリーン枠 | 50万円超~350万円 | 2/3以内 |
人材開発支援助成金
人材開発支援助成金は、企業が従業員のスキルアップを支援するための取り組みです。専門的な知識やスキルの獲得を促進し、企業の競争力向上に寄与します。これにより、労働者のキャリア形成が促進され、企業の成長にもつながります。
なお、令和5年4月に、従来の「特定訓練コース」「一般訓練コース」「特別育成訓練コース」という3つのコースが統合され、「人材育成支援コース」として新たな名称が採用されました。
以下は、各コースの受給要件を抜粋したものです。
- 人材育成支援コース:雇用する被保険者に対して、職務に関連した知識・技能を習得させるための訓練、厚生労働大臣の認定を受けたOJT付き訓練、非正規雇用労働者を対象とした正社員化を目指す訓練を実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成
- 教育訓練休暇等付与コース:有給教育訓練等制度を導入し、労働者が当該休暇を取得し、訓練を受けた場合に助成
- 人への投資促進コース:デジタル人材・高度人材を育成する訓練、労働者が自発的に行う訓練、定額制訓練(サブスクリプション型)等を実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部等を助成
- 事業展開等リスキリング支援コース:新規事業の立ち上げなどの事業展開等に伴い、新たな分野で必要となる知識及び技能を習得させるための訓練を実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成
- 建設労働者認定訓練コース:認定職業訓練または指導員訓練のうち建設関連の訓練を実施した場合の訓練経費の一部や、建設労働者に有給で認定訓練を受講させた場合の訓練期間中の賃金の一部を助成
- 建設労働者技能実習コース:雇用する建設労働者に技能向上のための実習を有給で受講させた場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成
- 障害者職業能力開発コース:障害者の職業に必要な能力を開発、向上させるため、一定の教育訓練を継続的に実施する施設の設置・運営を行う場合に、その費用を一部助成
出典:人材開発支援助成金
各コースによって助成の対象や助成額は異なりますが、この制度全体の特徴は、訓練にかかる費用などを支援することです。
サイバーセキュリティ対策促進助成金(東京都)
サイバーセキュリティ対策促進助成金は、東京都中小企業振興公社が提供しています。この制度は、中小企業や中小企業団体がサイバーセキュリティの向上を目的にした機器やサービスを導入する際に、一部の費用を支援してもらえるものです。
中小企業がサイバーセキュリティ対策を行う場合、導入費用がかさむ傾向にあります。助成金を受けることで、経費の一部をカバーでき、返済の必要がない資金を手に入れられます。
サイバーセキュリティ対策促進助成金の支給対象となるのは、以下に該当する中小企業です。
業種 | 定義(いずれかを満たす必要がある) |
製造業・建設業・運輸業など | 資本金の額又は出資の総額が3億円以下の会社常時使用する従業員の数が300人以下の会社及び個人 |
卸売業 | 資本金の額又は出資の総額が1億円以下の会社 常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人 |
小売業 | 資本金の額又は出資の総額が5,000万円以下の会社 常時使用する従業員の数が50人以下の会社及び個人 |
サービス業 | 資本金の額又は出資の総額が5,000万円以下の会社 常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人 |
助成の対象となる経費は、以下のものがあります。
- 統合型アプライアンス(UTM等)
- ネットワーク脅威対策製品(FW、VPN、不正侵入検知システム等)
- コンテンツセキュリティ対策製品(ウィルス対策、スパム対策等)
- アクセス管理製品(シングル・サイン・オン、本人認証等)
- システムセキュリティ管理製品(アクセスログ管理等)
- 暗号化製品(ファイルの暗号化等)
- サーバー(最新のOS搭載かつセキュリティ対策が施されたものに限る)
- 標的型メール訓練
なお、サイバーセキュリティ対策促進助成金の助成額・助成率については以下の通りです。
- 助成率:助成対象経費の1/2以内(1,000未満の端数は切り捨て)
- 助成限度額:上限1,500万円(下限額10万円)
- 標的型メール訓練:上限50万円(下限10万円)
躍進的な事業推進のための設備投資支援事業(東京都)
躍進的な事業推進のための設備投資支援事業は、令和3年に立ち上げた補助金制度で、競争力強化、DX推進、イノベーション、後継者チャレンジの4つの分野を重点的に支援しています。事業者が自らの収益力を高め、事業の拡大や新しいアイデアを生み出し、「稼ぐ東京」の実現を目指しています。
この制度は、以下のような方に適しているでしょう。
- 都心でビジネスを拡大したい方
- AIやその他のデジタルテクノロジーを活用して事業を発展させたい方
- 企業の引継ぎを進めながら新しい分野に参入したい方
利用対象となるのは、以下に該当する事業者です。
- 都内で事業を行っている
- 東京都に納税し、かつ税金等の滞納がない
- 過去に革新的事業展開設備投資支援事業の採択を受けた場合は、基準日現在で助成金額が確定している
- 本助成事業の同一回での申請は、一企業一申請のみ
- 他の助成事業に同一機械設備を申請・助成を受けていない
- 過去の助成事業において、事故がなく、報告書等を期日までに提出している
- 事業の継続に問題がない
- 法令等を遵守している
- 助成金申請者、設備購入先等の関係者が暴力団関係者、風俗関連業、賭博等でない
区分 | ゼロエミ要件 | 賃上げ要件 | 助成率 | 助成額 | |
競争力・ゼロエミッション強化/賃上げ促進 | 中小企業者 | 1/2以内 | 100万〜1億円 | ||
◯ | 2/3以内 | ||||
◎ ※2 | ◯ | 3/4以内 | |||
3/4以内 | |||||
小規模企業者※1 | 2/3以内 | 100万〜3千万円 | |||
◯ | 2/3以内 | 100万〜1億円 | |||
◎ ※2 | 3/4以内 | ||||
◯ | 3/4以内 | ||||
DX推進 | 2/3以内 | ||||
イノベーション | 2/3以内 | ||||
後継者チャレンジ | 2/3以内 |
※1 小規模企業者:常用従業員数が「製造業・その他」の場合は20人以下、「商業・サービス業」の場合は5人以下
※2 特に省エネ効果の高い取組については助成率を拡充
出典:第6回 躍進的な事業推進のための設備投資支援事業~機械設備・ソフトウェアを導入して生産性向上・競争力を強化しよう!~
テレワーク助成金を申請するための流れ
テレワーク助成金を申請するためには、以下の流れで手続きを進めましょう。
- 助成金(補助金)の申請条件を確認する
- 利用する制度を決め、申請を行う
- 採択結果の発表を待つ
それぞれの手順について解説します。
助成金(補助金)の申請条件を確認する
DXを促進するための補助金や助成金は、全ての企業が自動的に受給できるわけではありません。
そのため、補助金や助成金を申請する前に、自社が申請条件を満たしているかどうかを確認することが重要です。特に大企業の場合、申請条件を満たしていない可能性があるため、慎重に対処する必要があります。
利用する制度を決め、申請を行う
補助金や助成金を申請する際には、申請条件だけでなく、受給額や対象経費なども注意深く確認した上で、最適な支援策を選択しましょう。
書類の準備には時間がかかる場合があるため、できるだけ早めに準備を始めることがおすすめです。書類に不備があると、支給までの時間がかかる場合があるので、余裕を持ったスケジュール管理が欠かせません。
実際に制度を選定したら、運営事務局に必要な書類を提出しましょう。以下は、補助金や助成金の申請に必要な書類の一例です。
- 申請書
- 事業計画書
- 決算関連書類
- 印鑑証明書
- 納税証明書
補助金や助成金の種類によって必要な書類は異なるため、申請前に事前に確認してください。
採択結果の発表を待つ
申請書類を提出した後は、運営事務局からの採択結果を待つことになります。
採択された場合でも、補助金や助成金が直ちに支給されるわけではありません。採択後は、企画した事業計画に基づいて、新しいサービスの導入や製品の開発、業務の改善などを着実に進めていきます。そして、実際に行った事業内容や発生した経費に関する報告書を運営事務局に提出する必要があります。
報告書が適切に審査されると、補助金や助成金が支給される仕組みです。
テレワーク助成金に関してよくある質問
ここでは、テレワーク助成金に関してよくある質問をまとめました。
埼玉県で利用できるテレワーク助成金には何がある?
埼玉県で利用できるテレワーク助成金は、以下の2つが挙げられます。
- 人材確保等支援助成金(テレワークコース)
- IT導入補助金
人材確保等支援助成金(テレワークコース)は、厚生労働省によって提供される、中小企業が良質なテレワークを導入することで労働者の確保や雇用管理を向上させるための取り組みを支援するものです。
また、IT導入補助金は経済産業省が提供するもので、中小企業や小規模事業者を対象としたITツール導入のサポートを受けられる制度です。
テレワークの効果的な導入や実施によって、労働環境の改善や業務効率の向上が期待されます。
大阪府で利用できるテレワーク助成金には何がある?
現在、募集は終了していますが、大阪府では「大阪府リモートオフィス・モデル事業補助金」の制度が実施されていました。
この制度は、堺市の「泉北リモートワーク拠点整備推進補助金」で交付決定を受けた方を対象に、以下の限度額内で補助金が支給されるものです。
- 利用料金(実績)の総額の30%
- 利用料金の補助対象の額は1時間700円で算定
- 堺市補助(ビジネスタイプ:500万円、コミュニティタイプ:100万円)
まとめ
今回は、テレワークの導入で利用できる助成金について紹介しました。テレワークを導入する企業が増えているのに比例して、テレワークを支援する助成金・補助金制度も充実している傾向にあります。
記事で紹介した制度の例を参考に、テレワークの導入を検討している方は自社にとってプラスになる制度を選び、申請準備を進めてみてはいかがでしょうか。