中小企業が賃上げを行う際、経費の一部を支援してもらえる補助金・助成金制度があることをご存知でしょうか。これを見ている方は「補助金制度があるのは知っているけど、具体的にどのような制度を使えるのか分からない」「自社の事業に適用されるのか分からない」と疑問を持っている方も多いでしょう。
今回は、中小企業が賃上げで活用できる補助金・助成金について、12個の制度を紹介します。中小企業が賃上げを行うメリットについても解説していますので、ぜひ最後までご覧ください。
中小企業が賃上げで活用できる補助金・助成金の関連制度一覧
中小企業が賃上げで活用できる補助金・助成金などの制度には、以下のようなものがあります。
- キャリアアップ助成金
- 業務改善助成金
- 企業活力強化貸付
- 中小企業向け賃上げ促進税制
- 事業再構築補助金
- ものづくり補助金
- IT導入補助金
- 小規模事業者持続化補助金
- 事業承継・引継ぎ補助金
- 働き方改革推進支援助成金
- 中堅・中小企業の賃上げに向けた省力化等の大規模成長投資補助金
- 躍進的な事業推進のための設備投資支援事業(東京都)
それぞれの制度について、内容を確認しましょう。なお、上記には返済が必要な貸付制度なども含むため、会社の資産状況や事業内容などに合わせて適切な制度を選んでみてください。
キャリアアップ助成金
キャリアアップ助成金は、厚生労働省が提供する助成金制度で、非正規雇用労働者のキャリア形成に取り組む際に活用できます。支給要件として、有期雇用や派遣などで非正規雇用している人材を正規雇用へ切り替える際や障害者雇用の促進・職場定着を図る際などが挙げられます。
支給の対象となるのは、以下に該当する事業主です。
業種 | 条件 |
小売業(飲食店を含む) | 資本金5,000万円以下または労働者50人以下 |
サービス業 | 資本金5,000万円以下または労働者100人以下 |
卸売業 | 資本金1億円以下または労働者100人以下 |
その他の業種 | 資本金3億円以下または労働者300人以下 |
なお、キャリアアップ助成金には6種類のコースがあり、賃上げの際に活用できる制度は「賃金規定等改定コース」が該当します。
賃金規定等改定コースは有期雇用労働者等の基本給の賃金規定を改定し、3%以上増額した場合に利用できます。このコースの要件は以下の3点です。
- 賃金規定等を増額改定する前日までに「キャリアアップ計画」を作成し、最寄りの労働局へ提出していること
- 有期雇用労働者等の基本給を賃金規定等に定めていること
- 賃金規定等を3%以上増額改定し、 改定後の規定に基づき6か月分の賃金を支給していること
出典:「キャリアアップ助成金」を活用して 従業員の賃金アップを図りませんか?
支給額については、1人あたりそれぞれ以下のように定められています。
3%以上5%未満 | 5%以上 | |
中小企業 | 5万円 | 6万5,000円 |
大企業 | 3万3,000円 | 4万3,000円 |
業務改善助成金
業務改善助成金とは、中小企業や小規模事業者が生産性の向上を目指し、事業場内最低賃金の引き上げを行う場合に利用できる制度です。賃上げに伴う費用の一部が助成されます。
この制度の対象となるのは、以下の条件を満たす事業者です。
- 中小企業・小規模事業者である
- 事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内である
- 解雇、賃金引き下げなどの不交付事由がない
上記に並べた中小企業・小規模事業者とは、以下の要件を満たす事業者が該当します。
業種 | 資本または出資額 | 常時使用する従業員数 |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
その他 | 3億円以下 | 300人以下 |
なお、助成額は設備投資等に要した費用と助成率を乗じた額で決定します。
事業場内最低賃金額 | 助成率 |
900円未満 | 9/10 |
900円以上950円未満 | 4/5(生産性要件に該当する場合は9/10) |
950円以上 | 3/4(生産性要件に該当する場合は4/5) |
企業活力強化貸付
企業活力強化貸付とは、小規模事業者や中小企業が、パートタイムやアルバイトなどの非正規雇用者を含む最も低い賃金(事業場内最低賃金)に対し、2%以上の賃金引き上げを行う際に利用できる制度です。この制度では、低金利での設備資金や運転資金の融資が可能です。
卸売業・小売業・飲食サービス業・サービス業または要件を満たす不動産賃貸業を営む方を対象に、以下の事業に利用できます。
- 合理化、共同化を図るための設備の取得
- セルフサービス店の取得
- 集配センターの取得
- ショッピングセンターへの入居
- 販売促進・人材確保
- 新分野への進出
貸付限度額については、中小企業の場合、直接貸付で7億2千万円、代理貸付で1億2千万円です。
注意点として、この制度は補助金ではなく貸付制度であるため、設備資金の場合は20年以内(うち据置期間2年以内)、運転資金の場合は7年以内(うち据置期間2年以内)に返済する必要があります。
中小企業向け賃上げ促進税制
中小企業向け賃上げ促進税制は、青色申告書を提出している中小企業等の給与等の支給額が前年度よりも増加した場合(一定の要件を満たす必要あり)に、法人税や所得税の一部が税控除の対象となる制度です。
この制度の対象となるのは賃上げに取り組む企業や個人事業主で、令和6年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する事業に対して適用されます。
税控除率は、全雇用者の給与等支給額の増加額について、大・中堅企業であれば最大35%,
中小企業であれば最大45%です。
なお、適用対象となる事業者は3種類に分かれており、それぞれ以下の通りです。
- 全企業:青色申告書を提出する全企業又は個人事業主※
- 中堅企業:青色申告書を提出する従業員数2,000人以下の企業又は個人事業主
- 中小企業:青色申告書を提出する中小企業者等(資本金1億円以下の法人、農業協同組合等)又は従業員数1,000人以下の個人事業主
それぞれの企業向けの給与支給額に対する税控除率について、以下にまとめましたのでご覧ください。
<全企業向け>
全雇用者の給与等支給額(前年度比) | 税額控除率 | 上乗せ要件①教育訓練費 | 上乗せ要件②(新設)子育てとの両立・女性活躍支援 |
+3% | 10% | 前年度比+10%の場合、税控除率を5%上乗せ | 「プラチナくるみん」もしくは「プラチナえるぼし」認定の場合、税控除率を5%上乗せ |
+4% | 15% | ||
+5% | 20% | ||
+7% | 25% |
<中堅企業向け>
全雇用者の給与等支給額(前年度比) | 税額控除率 | 上乗せ要件①教育訓練費 | 上乗せ要件②(新設)子育てとの両立・女性活躍支援 |
+3% | 10% | 前年度比+10%の場合、税控除率を5%上乗せ | 「プラチナくるみん」もしくは「えるぼし三段階目以上」認定の場合、税控除率を5%上乗せ |
+4% | 25% |
<中小企業向け>
全雇用者の給与等支給額(前年度比) | 税額控除率 | 上乗せ要件①教育訓練費 | 上乗せ要件②(新設)子育てとの両立・女性活躍支援 |
+1.5% | 15% | 前年度比+5%の場合、税控除率を10%上乗せ | 「くるみん以上」もしくは「えるぼし二段階目以上」認定の場合、税控除率を5%上乗せ |
+2.5% | 30% |
小規模事業者持続化補助金
小規模事業者持続化補助金は、販路の拡大や業務の効率化を促進し、地域の雇用と生産性を向上させることを目的とした補助金制度です。積極的な販路拡大や業務プロセスの改善に取り組む小規模事業者に対して経費の一部を補助することで、地域経済の持続的な発展を支援します。
この補助金は、以下に該当する小規模事業者が対象です。
業種 | 条件 |
商業・サービス業 | 5人以下 |
サービス業(宿泊業・娯楽業) | 20人以下 |
製造業・その他 | 20人以下 |
なお、補助額は50万〜200万円の間で決定し、補助率は全枠共通で2/3となっています。通常枠では最大補助額が50万円までとなっていますが、賃金引き上げ枠であれば最大200万円まで補助対象となります。
申請枠 | 補助額 | 補助率 |
通常枠 | 50万円 | 2/3 |
賃金引上げ枠 | 200万円 | 2/3 |
卒業枠 | 200万円 | 2/3 |
後継者支援枠 | 200万円 | 2/3 |
創業枠 | 200万円 | 2/3 |
事業承継・引継ぎ補助金
事業承継・引継ぎ補助金は、事業の継承や引き継ぎを支援するための制度です。
この補助金制度では、国内経済の活性化を図るために、事業の継承にかかる費用や再編・統合に必要な費用を一部補助することを目的としています。また、引き継いだ事業の発展やM&Aに伴う費用の一部についても補助を受けられます。
補助制度は、経営革新事業、専門家活用事業、廃業・再チャレンジ事業の3カテゴリに分かれており、それぞれ以下のように対象者が決められています。
- 経営革新事業:経営資源の引き継ぎ型創業や事業承継(家族内の承継も含む)、過去数年間にM&Aによる事業再編を行った者、または補助事業期間内にM&Aを計画している者が対象
- 専門家活用事業:後継者がいない、もしくは経営強化が必要な場合、事業承継時に専門家を利用する者が対象
- 廃業・再チャレンジ事業:事業承継やM&Aを検討または実施し、それに伴って廃業などを行う者が対象
補助上限額や補助率については以下のように定められており、賃上げを実施する場合、600〜800万円の補助を受けられます。
類型 | 補助上限額 | 補助率 |
経営革新事業 | 〜600万円 | 1/2・2/3 |
600〜800万円 ※一定の賃上げを実施する場合 | 1/2 | |
専門家活用事業 | 〜600万円※M&A未成約の場合は〜300万円 | 1/2・2/3 |
廃業・再チャレンジ事業 | 〜150万円 | 1/2・2/3 |
働き方改革推進支援助成金
働き方改革推進支援助成金は、中小企業が働き方改革を前進させるために職場の環境を改善したり、有給休暇の取得を促進したりする際の一部費用を助成する制度です。
企業の生産性向上を主な目的としており、働き方改革や労働環境の向上に積極的に取り組む企業を支援しています。
この制度は、以下を満たす事業者が対象です。
業種 | 資本または出資額 | 常時使用する従業員数 |
小売業(飲食店を含む) | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
その他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
また、助成を受ける中小企業は、上記に加えて以下すべての条件を満たしていることが求められます。
- 労働者災害補償保険(労災保険)の適用事業主である
- 交付申請時点で成果目標の設定条件を満たしている
- 全ての対象事業場で、交付申請時点で年5日の年次有給休暇の取得に向けた就業規則を整備している
助成を受けるための成果目標については、以下3項目のうち1つ以上を選択する必要があります。
- 月60時間以下、又は月60時間を超え月80時間以下に上限を設定し、所轄労働基準監督署長に届け出を行う
- 全ての対象事業場において、年次有給休暇の計画的付与の規定を新たに導入する
- 全ての対象事業場において、時間単位の年次有給休暇の規定を新たに導入し、かつ、特別休暇(病気休暇、教育訓練休暇、ボランティア休暇、新型コロナウイルス感染症対応のための休暇、不妊治療のための休暇、時間単位の特別休暇)の規定をいずれか1つ以上を新たに導入する
中堅・中小企業の賃上げに向けた省力化等の大規模成長投資補助金
中堅・中小企業の賃上げに向けた省力化等の大規模成長投資補助金(中堅・中小成長投資補助金)とは、足元の人手不足に悩む中堅・中小企業が生産性向上や事業規模の拡大を目指す際に利用できる制度です。
常時使用する従業員数が2,000人以下の会社が、工場等の拠点を新設する場合や大規模な設備投資を行う際に利用できます。
この制度の要件は、以下の通りです。
- 投資額10億円以上
- 補助事業終了後3年間の賃上げ率が、直近5年間の最低賃金の伸び率以上
また、補助上限額は50万円、補助率は1/3以下と定められています。
躍進的な事業推進のための設備投資支援事業(東京都)
躍進的な事業推進のための設備投資支援事業とは、東京都内の中小企業が、製品やサービスの採用活動による競争力強化、生産性向上などに取り組む際に利用できる助成制度です。機械設備等の導入費用に対し、一部が助成されます。
この制度の対象となるのは、令和6年4月1日現在で東京都内に本店または支店があり、2年以上継続して事業を営んでいる中小企業です。業種に制限はなく、すべての業種に対して適用されます。
助成対象事業として、以下のいずれかに該当している必要があります。
- 競争力強化:事業発展に向けて競争力強化を目指す際の機械設備を導入する事業
- DX推進:IoT・AI・ロボット等のデジタル技術を活用し、新しい製品やサービスの構築、既存ビジネスの変革を目指す際の機械設備を導入する事業
- イノベーション:都市課題を解決し、国内外における市場拡大が期待される分野で新事業に取り組むことでイノベーション創出を図るための機械設備を導入する事業
- 後継者チャレンジ:事業継承を契機に、後継者による事業の多角化や新たな経営課題の取り組みに必要な設備を導入する事業
参考:第7回躍進的な事業推進のための設備投資支援事業募集開始
助成率・助成限度額については、事業規模や事業内容によって異なります。詳しくは以下の表にまとめましたのでご覧ください。
事業区分 | 助成率 | 助成額 | |
競争力強化 | 中小企業者 | 2分の1以内 | 100万〜1億円 |
3分の2以内 | |||
4分の3以内 | |||
4分の3以内 | |||
小規模企業者 | 3分の2以内 | ||
3分の2以内 | |||
4分の3以内 | |||
4分の3以内 | |||
DX推進 | 3分の2以内 | ||
イノベーション | 4分の3以内 | ||
後継者チャレンジ | 4分の3以内 |
中小企業が賃上げする3つのメリット
中小企業が賃上げを行うメリットとして、以下の3つが挙げられます。
- 人材確保につながる
- 従業員のスキルアップにつながる
- 節税につながる
それぞれの項目について確認しましょう。
人材確保につながる
賃上げは、中小企業が競争力を高め、優秀な人材を確保するための重要な手段です。給与水準が適切に設定されると、企業の人材定着率が高まり、優秀な従業員を長期間にわたって雇用しやすくなります。
そのため、賃上げは中小企業における人材の質を向上させ、成長を促進する基盤を築く一因となるでしょう。
従業員のスキルアップにつながる
中小企業が賃上げを行う際には、教育訓練費などの補助がある助成制度を活用できる場合があります。この制度を活用することで、企業は従業員のスキルアップを促進し、組織全体の生産性を向上しやすくなるでしょう。
また、高い給与水準は従業員のモチベーションを高め、自己成長に取り組む意欲を刺激します。
このような職場環境を従業員に提供することで、中小企業は組織全体の競争力を高め、持続的な成長を実現できます。
節税につながる
賃上げを実施する中小企業は、税制上の優遇措置を受けられる制度を活用することで節税のメリットを享受できます。
給与に関する支出に対して税額控除を受けられる制度を利用すれば、中小企業は税負担を軽減し、経営資源を効果的に活用しやすくなるでしょう。結果として、賃上げを通じて従業員のモチベーションやスキルの向上を図るだけでなく、企業の財務面も健全に維持することが可能です。
まとめ
今回は、中小企業が賃上げを行う際に利用できる補助金・助成金関連の制度を紹介しました。
最低賃金の引き上げが実施され、賃上げせざるを得ない状況に置かれている中小企業は少なくありません。本記事で紹介した制度を上手く活用し、賃上げにともなう経費負担を少しでも抑えられるようにしていきましょう。