エステサロンを開業する際には、テナント代や機械導入費をはじめとするさまざまな経費が発生します。そこで、経費負担を軽減するために助成金制度を活用する方法があります。
とはいえ、具体的にどのような制度があるのか分からない、自分の店舗で利用できる制度がどれなのか分からない、と悩む方も多いのではないでしょうか。
今回は、エステサロンの開業で利用できる助成金制度や開業時におけるポイントなどを解説します。エステサロンの開業を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
助成金と補助金の違い
経費負担を削減するための支援制度には、大きく分けて「助成金」と「補助金」の2種類があります。
まずは、助成金と補助金の違いについて簡単に確認しておきましょう。
助成金とは?
助成金は、一定の条件を満たせば給付されることが一般的ですが、補助金は予算や枠に限りがあり、競争が激しくなると抽選が行われることもあります。
また、助成金の応募期間は通常長めで、手続きが比較的容易ですが、補助金の場合は応募期間が短く、手続きが煩雑なことが一般的です。
そのため、補助金と比較して助成金の方が手続きが簡単で受給しやすいという特徴があります。
補助金とは?
補助金は、政府が特定の施策に資金を提供するために用意したもので、中小企業の成長と発展を後押しする制度です。
これらの資金は、予算や対象となるプロジェクトの数に制限があります。申請したプロジェクトが採択されることで受給できますが、必ずしも全ての申請が受け入れられるわけではありません。そのため、受給が保証されないことを念頭に置き、計画を立てておくことが重要です。
エステサロンの開業で活用できる助成金一覧
エステサロンの開業で活用できる助成金制度には、以下のようなものがあります。
- キャリアアップ助成金
- 地域雇用開発助成金(地域雇用開発コース)
- 人材開発支援助成金(人材育成支援コース)
- 雇用調整助成金
- トライアル助成金
- 業務改善助成金
それぞれの制度について、内容を確認しましょう。
キャリアアップ助成金
キャリアアップ助成金とは、中小企業が非正規雇用労働者のキャリア形成を目的に、有期雇用や派遣などの非正規雇用から正規雇用への切り替えなどを行う場合に支給される支援制度です。
この制度は、以下に該当する事業主が対象となります。
業種 | 条件 |
小売業(飲食店を含む) | 資本金5,000万円以下または労働者50人以下 |
サービス業 | 資本金5,000万円以下または労働者100人以下 |
卸売業 | 資本金1億円以下または労働者100人以下 |
その他の業種 | 資本金3億円以下または労働者300人以下 |
キャリアアップ助成金は大きく分けて「正社員化コース」と「障害者正社員化コース」の2つがあり、それぞれで内容が異なります。
まず、正社員化コースについての支給条件や金額は以下の通りです。
条件 | 金額 |
有期雇用から正規雇用(正社員) | 57万円 |
有期雇用から正規雇用(正社員)、なおかつ生産性向上要件を満たす場合 | 72万円 |
無期雇用から正規雇用(正社員) | 28万5,000円 |
無期雇用から正規雇用(正社員)、なおかつ生産性向上要件を満たす場合 | 36万円 |
続いて、障害者正社員化コースは、以下の支給条件や金額が定められています。
対象者 | 条件 | 金額 |
重度身体障害者、重度知的障害者および精神障害者 | 有期雇用から正規雇用(正社員) | 120万円 |
有期雇用から無期雇用(正社員) | 60万円 | |
無期雇用から正規雇用(正社員) | 60万円 | |
重度以外の身体障害者、重度以外の知的障害者、発達障害者、難病患者、高次脳機能障害と診断された者 | 有期雇用から正規雇用(正社員) | 90万円 |
有期雇用から無期雇用(正社員) | 45万円 | |
無期雇用から正規雇用(正社員) | 45万円 |
地域雇用開発助成金(地域雇用開発コース)
「地域雇用開発助成金(地域雇用開発コース)」は、地域内で雇用機会が不足している企業が、新たな事業所を設立または整備する際、地元の求職者を雇用する場合に利用できます。特定の条件下において、事業所の設立や整備にかかる費用を支援してもらえます。
受給回数によって受給要件が異なり、それぞれ以下の通りです。
受給回数 | 受給要件 |
1回目 | 同意雇用開発促進地域等の事業所における施設・設備の設置・整備及び、地域に居住する求職者等の雇い入れに関する計画書を労働局長に提出すること。事業の用に供する施設や設備を計画期間内に設置・整備すること地域に居住する求職者等を計画期間内に常時雇用する雇用保険の一般被保険者または高年齢被保険者としてハローワーク等の紹介により2人(創業の場合は2人)以上雇い入れること設置・設備事業所における完了日における被保険者数が、計画日の前日における数に比べ3人(創業の場合は2人)以上増加していること |
2回目・3回目 | 被保険者について、第2回目の支給基準日(完了日の1年後の日)および第3回目の支給基準日(完了日の2年後の日)における数が、完了日における数を下回っていないこと前述の要件を満たして雇い入れられた対象労働者について、第2回目および第3回目の支給基準日における数が、完了日における数を下回っていないこと完了日以降に事業主都合以外の理由による離職者が発生した場合、一定の範囲で補充が認められるが、第2回目および第3回目の支給基準日までの離職者の数は、完了日時点の対象労働者の1/2以下、または3人以下である必要がある |
受給額については、事業所の設置費用と増加した労働者の数によって決まります。
設置・設備費用 | 対象労働者の増加人数※括弧は創業の場合 | |||
3(2)〜4人 | 5〜9人 | 10〜19人 | 20人〜 | |
300万円以上 | 50万円 | 80万円 | 150万円 | 300万円 |
1,000万円以上 | 60万円 | 100万円 | 200万円 | 400万円 |
3,000万円以上 | 90万円 | 150万円 | 300万円 | 600万円 |
5,000万円以上 | 120万円 | 200万円 | 400万円 | 800万円 |
※中小企業は1回目の支給で1.5倍の支給額
※中小企業でなおかつ創業の場合は、1回目の支給で2倍の支給額
人材開発支援助成金(人材育成支援コース)
人材開発支援助成金企業は、従業員のスキルアップを支援するプログラムを積極的に展開しています。こうした取り組みは、従業員が専門知識やスキルを磨き、企業の競争力を強化する上で重要な役割を果たしています。これにより、個々の従業員がキャリアを築き、企業全体の成長に貢献することが期待されています。
なお、2023年4月には、これまでの「特定訓練コース」「一般訓練コース」「特別育成訓練コース」が「人材育成支援コース」として統合されるなど、制度の変更が行われました。
人材開発支援助成金にはさまざまなコースが用意されていますが、ここではその中でも代表的な人材育成支援コースに焦点を当てて紹介します。
人材育成支援コースの対象となるのは、以下のAかBいずれかに該当する中小企業事業主です。
業種 | A:資本金の額 | B:企業全体で常時雇用する労働者の数 |
小売業(飲食店を含む) | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
その他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
なお、1人あたりの支給限度額は実訓練時間数に応じて変動します。
企業規模 | 実訓練時間数 | ||
10時間以上100時間未満 | 100時間以上200時間未満 | 200時間以上 | |
中小企業事業主・事業主団体等 | 15万円 | 30万円 | 50万円 |
中小企業以外の事業主 | 10万円 | 20万円 | 30万円 |
雇用調整助成金
雇用調整助成金は、企業が経済的な課題に直面し、規模を縮小せざるを得ない場合に支援する制度です。この助成金は、従業員の雇用を守るために必要な施策や休業、教育訓練、または出向に伴う一部費用を助成し、企業の継続性を保つことを目指しています。
この制度では、以下の全てを満たす事業主が助成を受けられます。
- 雇用保険の適用事業主であること
- 売上高又は生産量などの事業活動を示す指標について、その最近3か月間の月平均値が前年同期に比べて10%以上減少していること
- 雇用保険被保険者数及び受け入れている派遣労働者数による雇用量を示す指標について、その最近3か月間の月平均値が前年同期に比べて、中小企業の場合は10%を超えてかつ4人以上、中小企業以外の場合は5%を超えてかつ6人以上増加していないこと
- 実地する雇用調整が一定の基準を満たすものであること。※
- 過去に雇用調整助成金の支給を受けたことがある事業主が新たに対象期間を設定する場合、直前の対象期間の満了の日の翌日から起算して一年を超えていること。ただし、新型コロナウイルス感染症の影響にともなう特例による雇用調整助成金(コロナ特例)の支給を受けたことがある場合は、当該特例に係る対象期間内の最後の判定基礎期間末日(助成金が支給されたものに限る。)の翌日から起算して一年を超えていること
※
- 休業の場合:労使間の協定により、所定労働日の全一日にわたって実施されるものであること
- 教育訓練の場合:休業の場合と同様の基準のほか、教育訓練の内容が、職業に関する知識・技能・技術の習得や向上を目的とするものであること
- 出向の場合:対象期間内に開始され、3か月以上1年以内に出向元事業所に復帰するものであること
助成額の算出は、休業期間には「事業主が支給した休業手当負担額」、教育訓練期間には「賃金負担の相当額」に、それぞれの助成率を適用して行われます。さらに、教育訓練を受ける場合には、1人1日あたり1,200円が追加で支払われます。
助成内容と受給額 | 助成率 |
休業を実施した場合の休業手当または教育訓練を実施した場合の賃金相当額、出向を行った場合の出向元事業主の負担額に対する助成(率)※対象労働者1人あたり8,490円が上限(令和5年8月1日現在) | 中小企業:2/3中小企業以外:1/2 |
教育訓練を実施したときの加算(額) | 1人1日当たり1,200円 |
トライアル助成金
トライアル雇用は、雇用者と企業が3か月間の一定期間で契約を結ぶ制度です。この取り決めのもと、期間終了後に雇用者が正規の社員として雇用される可能性があります。厚生労働省によると、トライアル雇用を経た労働者の約8割が正規雇用に移行しているとの報告があります。
ただし、雇用形態の転換は必ずしも保証されておらず、企業によっては一部の雇用者のみを正規雇用に切り替えることもあります。
トライアル雇用助成金を受けられる事業主は、週に30時間以上の労働時間を確保し、一定期間内に従業員を解雇していないことが条件です。
なお、対象者は中高年齢者や若年者、母子家庭の母、父子家庭の父、季節労働者、永住帰国者、障がい者、日雇労働者、ホームレスなど幅広い人々が含まれます。
この助成金を利用するには労働局やハローワークを通じて申請する必要があり、申請が承認されると最長3ヶ月にわたって月額最大5万円の助成金が支給されます。
業務改善助成金
業務改善助成金は、生産性向上に取り組む中小企業や小規模事業者が活用できます。中小企業や小規模事業者が事業場内最低賃金の引き上げを行った場合、費用の一部に対して助成を受けられます。
この制度は、以下の条件を満たす事業者が対象です。
- 中小企業・小規模事業者である
- 事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内である
- 解雇、賃金引き下げなどの不交付事由がない
なお、ここでいう「中小企業・小規模事業者」とは、以下の要件を満たしている事業者が該当します。
業種 | 資本または出資額 | 常時使用する従業員数 |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
その他 | 3億円以下 | 300人以下 |
助成額については、設備投資等に要した費用と助成率を乗じた金額で決定します。
事業場内最低賃金額 | 助成率 |
900円未満 | 9/10 |
900円以上950円未満 | 4/5(生産性要件に該当する場合は9/10) |
950円以上 | 3/4(生産性要件に該当する場合は4/5) |
エステサロンの開業で失敗しないためのポイント
エステサロンの開業で失敗しないためのポイントとして、以下の4点が挙げられます。
- コンセプトを明確にする
- 効果的な営業方法を取り入れる
- 集客戦略を立てる
- 内装や設備にかける費用を抑える
- おしゃれな内装デザインにする
それぞれのポイントについて、内容を確認しましょう。
コンセプトを明確にする
エステサロンの開業で失敗しないためには、まずコンセプトを明確にすることが重要です。
サロンのテーマや提供するサービス、ターゲット顧客層を明確に定めることで、集客やブランディングが容易になります。コンセプトを明確にすることで、差別化や顧客満足度の向上にもつながるでしょう。
効果的な営業方法を取り入れる
エステサロンにおいて、効果的な営業方法を取り入れることで経営の失敗を回避しやすくなります。
まず、顧客目線に立った接客や施術はリピーターを獲得するポイントです。丁寧なカウンセリングや施術、定期的なメニューの見直し、ポイントカードやクーポンの活用は顧客満足度の向上に繋がりやすいでしょう。
また、無理な営業や押し売りは避け、顧客のニーズを重視することが重要です。顧客が求める心身のトラブル解消を提供することで、確実なリピーターの獲得につながります。
集客戦略を立てる
エステサロンの開業で成功するためには、集客戦略を立てることが不可欠です。ターゲット顧客層を明確にし、効果的な広告やSNSマーケティング、イベント参加などの手段を活用して集客を図りましょう。
顧客のニーズに合わせたサービス提供や特典付きのキャンペーンなど、魅力的なプロモーションの実施も欠かせません。
内装や設備にかける費用を抑える
エステサロンの開業において、内装や設備にかける費用を抑えることは重要です。中古の設備や家具を活用したり、リースやレンタルを検討することで初期投資を抑えやすくなります。
また、デザインやインテリアをシンプルにすることでコストを削減し、効果的なコスト管理を行いましょう。
おしゃれな内装デザインにする
エステサロンの内装デザインはコストをかけ過ぎると経費を圧迫してしまいますが、おしゃれな雰囲気を演出することも重要な要素の一つです。
経費を抑えておしゃれな内装デザインを実現するためには、上述のように中古で手に入るリーズナブルな家具やインテリアを活用するほか、DIYを取り入れて自分で装飾や塗装を行うといった方法もあります。
デザインはシンプルかつ洗練されたものを目指し、おしゃれな雰囲気を演出しつつもコストを抑える工夫が大切です。
まとめ
今回は、エステサロンの開業時に活用できる助成金制度を紹介しました。店舗の開業時にはさまざまなお金が必要になるため、少しでも経費負担を軽減できるよう、助成金制度の利用を検討してみてはいかがでしょうか。
この記事で紹介した制度例を参考にしながら、助成金の申請や受け取りのための準備を進めていきましょう。