インボイス制度を導入するにあたって、事務負担が増える、税控除額が減少するといった問題に直面している企業は少なくありません。そのような時に活用したいのが、補助金制度です。
今回は、インボイス制度の概要やインボイス制度によって事業者が受ける影響を解説したのち、インボイス制度の導入に伴い活用可能な補助金制度をいくつか紹介します。
インボイス制度の導入を検討している企業の方は、ぜひ最後までご覧ください。
インボイス制度とは?
インボイス制度(適格請求書等保存方式)とは、2023年10月から導入された制度で、税率や消費税額の正確な把握を目指し、課税事業者と免税事業者の納税を公平にすることを目的としています。
この制度で仕入税額控除を受けるためには、適格請求書が必要になります。適格請求書は、従来の区分記載請求書に新しい項目が追加された形式です。
ただし、免税事業者は適格請求書を発行できないため、取引先の仕入税額控除に影響を及ぼす可能性があります。
インボイス制度によって事業者が受ける影響
インボイス制度によって事業者が受ける影響として、以下の4点が挙げられます。
- 登録に手間がかかる
- 経理負担が増える
- 消費税負担が増える
- 取引先が減る可能性がある
それぞれの項目について、内容を確認しましょう。
登録に手間がかかる
インボイス制度に移行する際、免税事業者がインボイス発行事業者になるには、手続きが必要です。通常は、インボイス登録申請書と消費税課税事業者選択届出書の提出が必要ですが、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの期間中は経過措置があり、登録を受けたその日から課税事業者になることが可能です。
ただし、手続きには手間が発生し、特に選択届出書の提出や必要な書類の準備に時間を要することがあるでしょう。
経理負担が増える
インボイス制度の導入に伴い、経理部門には新たな負担が生じます。従来の請求書とは異なるインボイスを発行・保存する必要があり、これにはシステムの導入や運用に関する検討が必要です。
このため、売り手側は適切なインボイスを発行するための体制を整える必要があります。一方、買い手側は、取引先が適格な請求書を発行できる事業者であるかどうかを確認するための作業が増加します。
これらの手続きにより、経理業務における負担が増えることが予想されます。
消費税負担が増える
従来までは、課税売上高が1,000万円未満の免税事業者は消費税を納税する義務がありませんでした。
しかし、適格請求書発行事業者に登録するには、申請を行い課税事業者として登録する必要があります。これにより、消費税を納税する責任が生じます。
さらに、適格請求書発行事業者への登録は義務ではないものの、インボイスを提供できない場合、取引先から消費税の値引きを求められる可能性があります。これにより、免税事業者の消費税負担が増加することが懸念されます。
取引先が減る可能性がある
インボイス制度の導入により、買い手側は消費税の仕入額控除を求め、課税事業者との取引が増加すると見込まれます。これにより、免税事業者の取引先が減少する可能性が高まります。
しかし、免税事業者が課税事業者となれば消費税負担が増加するため、業界全体にとっては難しい選択をしなければならないことが特徴です。
インボイス制度で法人や個人事業主が申請できる補助金3選
インボイス制度の導入に伴い、法人や個人事業主が申請できる補助金には、以下3つの制度があります。
- IT導入補助金
- 小規模事業者持続化補助金
- ものづくり補助金
それぞれの制度について内容を確認しましょう。
IT導入補助金
IT導入補助金は、中小企業や小規模事業者がビジネスの生産性向上や事業拡大への取り組みの一環として、ITツールを導入する場合に活用できる支援制度です。
この補助金を受けるには、IT導入補助金事務局に登録されているツールを導入しなければなりません。また、補助金を申請する際には、「IT導入支援事業者」との連携が必要です。
IT導入補助金は、以下に該当する小規模事業者と中小企業が対象となります。
対象事業者 | 業種 | 条件 |
小規模事業者 | 商業・サービス業 | 従業員が5人以下 |
サービス業(宿泊業・娯楽業) | 従業員が20人以下 | |
製造業・その他 | 従業員20人以下 | |
中小企業 | 製造業 | 資本3億円以下もしくは従業員300人以下 |
卸売業 | 資本1億円以下もしくは従業員100人以下 | |
サービス業 | 資本5,000万円以下もしくは従業員100人以下 | |
小売業 | 資本5,000万円以下もしくは従業員50人以下 | |
ソフトウェア業 | 資本3億円以下もしくは従業員300人以下 | |
旅館業 | 資本5,000万円以下もしくは従業員200人以下 | |
その他の業種 | 資本3億円以下もしくは従業員300人 |
補助額・補助率については以下の通りです。
申請枠 | 補助額 | 補助率 |
通常枠 | 5万〜150万円未満 | 1/2以内 |
インボイス枠(インボイス対応類型) | 10万〜350万円以下 | 1/2〜4/5以内 |
インボイス枠(電子取引類型) | (下限なし)〜350万円以下 | 1/2〜2/3以内 |
セキュリティ対策推進枠 | 5万〜100万円以下 | 1/2以内 |
複数社連携IT導入枠 | 補助対象経費によって異なる(3,000万円以下) | 1/2〜4/5以内 |
インボイス制度に対応するには、新しいハードウェアやシステムの導入が必要になるため、この場合にIT導入補助金を活用できます。インボイス制度の登場により、これまで補助対象外とされていたPCやスキャナーなどの購入費用も対象となりました。
小規模事業者持続化補助金
小規模事業者持続化補助金は、事業の販路拡大や業務効率化に取り組む小規模事業者が利用できます。助成対象となる具体的な費用として、機械や装置の導入費用、Webサイトやチラシの作成費用、展示会への出展費などがあります。
この制度の対象となるのは、以下に該当する小規模事業者です。
業種 | 条件 |
商業・サービス業 | 5人以下 |
サービス業(宿泊業・娯楽業) | 20人以下 |
製造業・その他 | 20人以下 |
補助額は50万〜200万円の間で決定し、補助率は全枠共通で2/3と定められています。
申請枠 | 補助額 | 補助率 |
通常枠 | 50万円 | 2/3 |
賃金引上げ枠 | 200万円 | 2/3 |
卒業枠 | 200万円 | 2/3 |
後継者支援枠 | 200万円 | 2/3 |
創業枠 | 200万円 | 2/3 |
この制度では、令和3年度の補正予算からインボイス枠が新設され、免税事業者から的確請求書発行事業者になった小規模事業者は、補助上限額が50万円上乗せされます。(インボイス特例の要件を満たす場合)
ものづくり補助金
ものづくり補助金とは、企業が革新的な商品やサービスの開発、生産プロセスの改善に取り組む際に活用できる支援制度です。
この補助金は、以下の条件に該当する小規模事業者や中小企業が対象となります。
対象事業者 | 業種 | 条件 |
小規模事業者 | 商業・サービス業 | 従業員が5人以下 |
サービス業(宿泊業・娯楽業) | 従業員が20人以下 | |
製造業・その他 | 従業員20人以下 | |
中小企業 | 製造業 | 資本3億円以下もしくは従業員300人以下 |
卸売業 | 資本1億円以下もしくは従業員100人以下 | |
サービス業 | 資本5,000万円以下もしくは従業員100人以下 | |
小売業 | 資本5,000万円以下もしくは従業員50人以下 | |
ソフトウェア業 | 資本3億円以下もしくは従業員300人以下 | |
旅館業 | 資本5,000万円以下もしくは従業員200人以下 | |
その他の業種 | 資本3億円以下もしくは従業員300人 |
補助額については100万円から4,000万円、補助率は1/2から2/3となっています。
申請枠 | 補助額 | 補助率 |
通常枠 | 100万~1,250万円 | 1/2(小規模事業者または再生事業者は2/3) |
回復型賃上げ・雇用拡大枠 | 100万~1,250万円 | 2/3 |
デジタル枠 | 100万~1,250万円 | 2/3 |
グローバル市場開拓枠 | 100万~3,000万円 | 1/2(小規模事業者または再生事業者は3分の2) |
グリーン枠 | 100万~4,000万円 | 2/3 |
インボイス制度の導入に伴い、デジタル枠ではインボイス制度対応のためのシステム導入にかかった経費も助成対象となります。これにより、インボイス制度の導入にかかった経費が最大1,250円助成されます。
補助金以外にインボイス制度による負担を軽減する方法
上記で紹介した補助金制度を利用するほか、以下の負担軽減措置によってインボイス制度による経費負担を削減できる場合があります。
- 2割特例の適用
- 少額の返還はインボイス免除
- 少額の取引はインボイス不要
それぞれについて、詳しい内容を確認しましょう。
2割特例の適用
インボイス制度導入により、免税事業者から課税事業者への移行に伴う負担軽減策として、2割特例が設けられました。この特例では、免税事業者が課税事業者となった際の税負担を売上税額の20%に軽減します。
通常、インボイス制度においては請求書の仕分けやインボイスの管理が必要ですが、2割特例の適用によりこれらの手続きが不要になります。また、消費税の計算も売上税額の把握によって行えます。
この特例の適用期間は2023年10月1日から2026年9月30日までの3年間であり、事前届出は必要ありません。適用を希望する場合は、消費税の確定申告書に特例の適用を希望する旨を記載するだけで手続きが完了します。
少額の返還はインボイス免除
税込み1万円未満の商品の返品や値引き、割戻しなど、少額の対価に関する返金については、返還インボイスを発行する必要がありません。この免除は、全ての個人に適用され、期間の制約もありません。
これにより、返金手続きに伴う事務作業が簡素化され、以前から懸念されていた振込手数料などの手間が軽減されます。税制の改正により、少額の返金に関するインボイス手続きが不要となり、事業者の負担が軽減されることが期待されています。
少額の取引はインボイス不要
1回の取引が1万円未満の場合、少額特例によりインボイスの発行が不要となります。この特例では、取引内容を帳簿に記載することで、仕入税額の控除が可能です。従来の請求書の仕分け作業が不要になるため、業務の効率化が期待されます。
少額特例の対象期間は2023年10月1日から2029年9月30日までで、適用対象は課税売上高が1億円以下の事業者や特定機関の課税売上高が5,000万円以下の事業者です。国税庁の基準によれば、1回の取引での税込み価格が1万円未満であることが条件となります。
インボイス制度に関連する補助金を利用する際の注意点
インボイス制度の導入にともない、補助金を利用する際は以下の点に注意しましょう。
- 交付決定日前の購入費用は補助対象外になる
- 補助金は課税の対象になる
それぞれのポイントについて解説します。
交付決定日前の購入費用は補助対象外になる
インボイス制度に関連する補助金を利用する際の1つ目の注意点として、補助金の交付が決定される前に行った取引は補助の対象外となることが挙げられます。
補助金は通常、交付が決まった後に使用されるため、取引を行う際は交付が確定してからというタイミングが重要です。したがって、補助金を受けるために購入を検討している場合は、交付が確定してから購入や契約を行うようにしてください。
支払い方法についても注意が必要です。補助金制度には経費支出のルールがあるため、使用する制度に応じて適切な支払い方法を選択しましょう。
一般的には、銀行振り込みが推奨されます。また、補助対象期間内に支払いを完了させる必要があるため、クレジットカードなどの支払い方法は期限に間に合わない可能性がある点に注意しなければなりません。
補助金は課税の対象になる
インボイス制度に関連する補助金を利用する際の2つ目の注意点として、補助金は収入と見なされるため課税対象となることが挙げられます。
法人であれば法人税の対象となり、個人事業主であれば所得税や住民税の増減に影響します。
補助金を受け取った年度は、通常は課税所得が増加し、税負担が増える傾向にあります。このため、補助金による税負担を軽減するためには、圧縮記帳が利用されます。圧縮記帳は、補助金額を固定資産の取得額から差し引いて圧縮損として計上し、その額を益金と相殺する方法です。
圧縮記帳を用いることで、単年の税負担を軽減し、補助金の有効活用が可能です。ただし、圧縮記帳によって免除されるわけではないため、分割納付などで適切な対応が必要になるでしょう。
インボイス制度に関する補助金についてよくある質問
ここでは、インボイス制度に関する補助金について、よくある質問をまとめました。
法人や個人事業主がインボイス制度の補助金を申請できるのはいつまで?
本記事で紹介した3つの制度について、補助金の申請期限はそれぞれ以下の通りです。
- IT導入補助:2024年2月16日(金)〜終了時期は後日案内予定
- 小規模事業者持続化補助金:2024年5月8日(水)〜2024年5月27日(月)※現時点での見込み
- ものづくり補助金:〜2024年3月27日(水)※次回の募集予定については未定
それぞれの制度によって申請可能な期間が異なるため、常に最新の情報をチェックすることが大切です。
インボイス制度について商工会・商工会議所が支援する補助金は何がある?
商工会・商工会議所が支援するインボイス制度に関わる補助金は、小規模事業者持続化補助金です。以下に、制度の簡単な特徴をまとめました。
小規模事業者持続化補助金は、業務改善や販路拡大を目指す小規模事業者向けの制度です。
対象となる経費は機械導入や広報活動など多岐にわたり、補助額は50万〜200万円、補助率は2/3です。商業・サービス業では5人以下、宿泊業・娯楽業・製造業・その他では20人以下の事業者が対象となります。
令和3年度の補正予算で新設されたインボイス枠では、免税事業者から適格請求書発行事業者になった場合、補助上限が50万円増額されます。
インボイス制度のためにパソコンを買った個人事業主が使える補助金は?
インボイス制度の導入に伴い、パソコンを購入した場合、個人事業主が活用できる補助金はIT導入補助金が挙げられます。以下は、制度に関する概要です。
IT導入補助金は、中小企業や小規模事業者が業務効率化や事業拡大のためにITツールを導入する際の支援制度です。対象事業者は従業員数や業種によって定められており、補助額は与除率は申請枠によって異なります。。
この補助金を受けるには、IT導入補助金事務局に登録されたツールを導入し、IT導入支援事業者と連携する必要があります。また、インボイス制度に対応するための新しいハードウェアやシステムの導入にも利用可能です。
まとめ
今回は、インボイス制度の導入に伴って活用できる補助金制度について、いくつか紹介しました。インボイス制度の導入時や導入後には、企業にとって経理負担や税負担が増えるといった懸念点が生じることもあるため、補助金制度を上手く活用して少しでも費用負担を減らすことがポイントです。
記事で紹介した補助金例を参考に、活用できそうな制度の内容を確認し、申請のための準備を進めましょう。